3強状態、混戦模様の英オークス戦線

2019年05月08日(水) 12:00

はじめは一頭別格かのようにも見えたが…

 この1週の間に上位人気に大きな変動があったのが、5月31日にエプソムで行われる3歳牝馬3冠2戦目のG1英オークス(芝12F6y)を巡るアンティポストマーケットだった。

 1000ギニー戦線同様、オークス戦線も確固たる軸馬がいないまま推移していたのが、そんな中で芝平地シーズン開幕後にファンの支持が増加していたのが、エイダン・オブライエン厩舎のピンクドッグウッド(牝3、父キャメロット)だった。

 同馬の2歳時の成績は4戦1勝。9月22日にゴウランパークで行われたメイドン(芝8F)で7馬身差という派手な勝ち方を見せ、デビュー3戦目にして初勝利を手にしている。だが、続いて出走したロンシャンのG1マルセルブーサック賞(芝1600m)では、一気の相手強化に対応出来ず、8頭立ての5着に敗れて2歳シーズンを終えていた。

 すなわち、期待馬ではあったのだが、顕著な実績を残せたわけではなかったのが2歳時のピンクドッグウッドだったのだが、ひと冬越えて大きく成長。シーズン開幕を前にして、拠点のバリードイルで抜群の調教を披露し、オブライエン師もこれをおおいに喧伝することとなった。

 ピンクドッグウッドは、エイダンの子息ジョセフ・オブライエンが管理する昨年のG1愛ダービー(芝12F)勝ち馬ラトローブ(牡4、父キャメロット)の全妹という良血で、その資質が開花の兆しを見せているのならと、オークスの前売り市場で急速に評価を高めていたのだった。

 それが決定的となったのが4月28日で、ピンクドッグウッドはこの日、ナーヴァン競馬場で行われた3歳牝馬によるLRサルサビルS(芝10F)で今季初登場。オブライエン厩舎の主戦R・ムーアが手綱をとった同馬は、レース前半は10頭立ての7番手を追走。2F標識の手前から進出を開始した同馬は、ムーアのハンドライドに応えて良く伸び、残り1Fで先頭に立って優勝。2着馬との着差はわずか1/2馬身だったが、鞍上のムーアが1度もステッキを使わなかったことを考えると、馬への負担を出来るだけ軽く抑えつつ、しかししっかりと勝利をもぎ取り、オークスへの確たる足がかりを築いた結果となった。

 このパフォーマンスを受け、ブックメーカー各社はオークスの前売りにおける同馬のオッズを4〜5倍にカット。他馬のオッズは押しなべて10倍以上で、つまりはこの段階でピンクドッグウッドは、1頭だけ抜きんでたオークス候補となったのである。

 しかし、情勢は1週間後の5月5日に大きく動くことになった。

 この日、ニューマーケットで3歳牝馬3冠初戦のG1千ギニー(芝8F)が行われ、ピンクドッグウッドと同厩のハーモサ(牝3、父ガリレオ)が優勝を飾った。

 ハーモサの2歳時の戦績は、7戦2勝。9月にナースのG3パークS(芝7F)を制している他、G1モイグレアスタッドS(芝7F)2着、G1フィリーズマイル(芝8F)2着と、牝馬の王道路線で善戦。シーズンの最後には仏国に遠征してG1クリテリウムインターナショナル(芝1400m)で牡馬と対戦し、ここでも2着という堂々たるパフォーマンスを見せていた。そして、ヨーロッパ2歳ランキングでレイテイング110を与えられて牝馬の第8位となった同馬は、前述したピンクドックウッドに更に輪をかけたような良血であった。同馬の6歳年上の全兄が、移籍先の豪州でG1ランヴェットS(芝2000m)を制したザユナイテッドステーツで、2つ年上の全姉が、17年にG1メイトロンS(芝8F),G1ブリティッシュチャンンピオンズ・フィリーズ&メアズ(芝11F211y)と距離カテゴリーの違う2つのG1を制したハイドレンジアなのだ。

 オブライエン厩舎は1000ギニーに4頭出しで臨んだのだが、このうち最後まで出否が確定しなかったのが、ここは回避しオークス前哨戦にいずれかに廻る可能性があったハーモサだったのだが、最終的にはウェイン・ローダンが手綱をとって参戦。発馬後まもなくハナに立つと、ゴール前で詰めよるライバルたちを突き放す二の脚を見せて、見事に逃げ切り勝ちを果たした。

 同馬の母ビューティイズトゥルースは、G2グロシェーヌ賞(芝1000m)、G3アレンベルク賞(芝1100m)を制しているスプリンターで、距離延長に対する一抹の不安がなくはない馬なのだが、1000ギニーの結果を受けてブックメーカー各社は、オークスへ向けた前売りで同馬をオッズ6〜8倍の2〜3番人気に浮上させることになったのである。

 そして、5月5日にニューマーケットで、1000ギニーの1時間10分後に行われたのが、3歳牝馬によるLRプリティポリーS(芝10F)だった。13年にはタレントが、14年にはタグルーダが、ここを勝って臨んだ英オークスを制している、重要なオークスプレップの1つである。

 この一戦に、オッズ2.25倍の1番人気に推された出走したのが、ウィリアム・ハガス厩舎のマクサド(牝3、父シユーニ)だった。同馬を生産したのは仏国の名門ウィルデンシュタイン家で、祖母がG1仏オークス(芝2100m)を含めて3つのG1を制したアクアレリストという、名家所縁の血脈を背景に持つ馬だが、ウィルデンシュタイン家が馬産からほぼ撤退することになって催された、16年秋のヴィルデンシュタイン・ディスパーザルに上場され、ここでハムダン殿下の競馬組織シャドウェルが77万5千ユーロ(当時のレートで約9138万円)で購買している。

 2歳の9月にデビューしたものの、2歳時は2戦して未勝利に終わった同馬は、今季初戦となったニューマーケットのメイドン(芝8F)を短頭差で辛勝し、デビュー3戦目で初勝利を挙げた。同馬にとって3歳2戦目となったのがLRプリティポリーSで、ジェームズ・ドイルが騎乗したマクサドはレース前半は7頭立ての最後方に待機。3F標識の手前から抜群の手応えのまま進出を開始すると、残り450mで先頭に立ち、そこから更に脚を伸ばして最後は後続に5馬身差をつける完勝となった。

 陣営はレース後、G1英オークスへの期待をあらわにした一方で、12Fへの距離延長に懸念を抱いていることも表明。5月26日のG1サンタラリ賞(芝2000m)から6月16日のG1仏オークス(芝2100m)に向かう路線も視野に入れていることを明らかにしている。

 しかし、この結果を受けてブックメーカー各社は、英オークスへ向けた前売りで同馬をオッズ6〜9倍の2〜3番人気に浮上させている。すなわち、現段階ではピンクドッグウッド、ハーモサ、マクサドの3強状態になっているのが英オークス戦線である。

 この後、5月8日にチェスターで行われるLRチェシェアオークス(芝11F75y)、11日にリングフィールドで行われるLR英オークストライアルS(芝11F133y)、15日にヨークで行われるG3ミュージドラS(10F56y)、18日にニューバリーで行われるLRフィリーズトライアルS(芝10F)と続いていく、一連のオークスプレップの中で戦線がどう動いていくか、興味を持って見守りたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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