ディープインパクト後継種牡馬の特性(村本浩平)

2019年06月25日(火) 18:03

圧倒的なスピード能力を受け継ぎ、マイル適性は世界レベル

 ディープインパクト後継種牡馬は、本質的にマイラーである。その思いをキズナ、そしてリアルインパクト産駒の競馬での走りを見て、改めて思った。

 今年、産駒を送り出した新種牡馬で、第一号となる勝ち名乗りをあげたのはキズナ。また、リアルインパクトも2頭の産駒がメイクデビューを勝利している。早い時期の2歳戦ということもあるのだが、キズナ産駒が勝利したのは芝の1600Mと芝の1400M、リアルインパクト産駒が勝利したのは芝の1400Mと芝の1200Mとなっている(6月24日現在)。

 ただ、「マイル種牡馬」であることが決して悪いこととは思わない。いや、種牡馬としての未来、そしてPOGの指名馬として考えたときに、それはアドバンテージともなっていくはずだ。なぜかというと、「マイル種牡馬」は2歳戦の早い時期からの勝ち上がりが期待出来るからである。

 先日、ある取材で2頭が繋養されている社台スタリオンステーションのスタッフの方とお話しをする機会があった。その時に話題に上がったのがキズナやリアルインパクト、そしてエピファネイアといった新種牡馬の話だったのだが、そのスタッフの方からも、

「近年の産駒実績を見ても、ディープインパクト産駒のマイル適性は世界レベルかもしれない」

 との話が聞かれた。確かにディープインパクト産駒の牡馬で最初にG1を勝ったのは、安田記念を制したリアルインパクトであり、その後、産駒の制したG1レースを見ても、4連覇を果たした桜花賞など、マイルGIでの勝ち鞍が最も多い。しかもサクソンウォリアーがレーシングポストトロフィー(2017年)、英2000ギニー(2018年)とマイルのG1レースを勝利と、まさに世界レベルのマイル適性を持ち合わせていることを証明している。

「いやいや、今年の日本ダービーではディープインパクト産駒がワンツーフィニッシュを果たしているし、近年におけるクラシックの結果からしても、やっぱりクラシック向きの種牡馬じゃないの?」

 と思っているそこのあなた。実はその意見も正しい。正しいというよりも、ディープインパクト自身の圧倒的なスピード能力を産駒も受け継いでいるからこそ、2歳戦、3歳戦ではそのスピードを武器として、オークスやダービーが行われる芝2400Mでさえも凌駕してしまっている、との見方が正しいのかもしれない。

 近年のクラシック戦線における出走馬は、

「その時点における、絶対的なスピード能力の高さ」

 を有している馬が結果を出しているようにも思える。だからこそ、古馬になったディープインパクト産駒の中には、スピード能力の高さを生かせるマイル、もしくは中距離に戦いの場をシフトする傾向が見られるのだろう。一方、ディープインパクト産駒でも母系や母父の影響が強く出たり、気性面での落ち着きが見られた馬には、距離適性の融通が見られることがある。それがフィエールマンや、サトノダイヤモンドのような芝3000MでGIを制した馬なのではないだろうか。

 話は戻るが、ディープインパクト後継種牡馬がマイラーであるというのは、決して悪いこととは思えないその理由。それは現在の競馬では、2歳戦から勝ち鞍をあげている種牡馬の産駒が、そのままクラシックへの階段を上っていける傾向が強いからである。それは昨年の2歳サイアーの成績(1位…ディープインパクト、2位…ロードカナロア、3位…ダイワメジャー、4位…ルーラーシップ、5位…ハービンジャー)ともリンクしている。

 つまり、2歳サイアーで成績を残せないような種牡馬の産駒たちは、その後、3歳を迎えてから勝ち上がったとしても、その前にずらりと立ちはだかるのは、先述の2歳サイアー上位種牡馬の産駒たちなのだ。

 よっぽどの能力があれば、その争いを制することはできるだろうが、ダービー、あるいはオークスまでの期間に芝2400MのGIレースはこの2つしかない一方で、阪神JF、朝日杯FS、桜花賞、NHKマイルCといった芝のGIレース、そしてマイルや中距離の重賞レースは幾つもある。つまり、ダービーやオークスに出走するため、そしてPOGでのポイントを得るためにも、種牡馬のマイル適性は必要不可欠となっているのだ。

 勿論、キズナの産駒がマイラーで終わるとは到底思えない。配合馬の血統や馬体の印象からすると、今後、更に距離が伸びたとしても勝ち鞍を量産してくるだけでなく、産駒に共通する前向きさと力強さからすれば、ダートでも勝ち上がってくる馬が出てくるに違いない。今の競馬は2000Mの適性があれば、皐月賞は圏内となるだけでなく、ダービーまで押し切ってしまうことも可能である。リアルインパクトはそれよりも更にマイル適性が強いと思われるが、それだけにスプリントを得意とする産駒が出てきそうであり、今後の2歳重賞であっさりと勝ち馬が誕生しているかもしれない。

 一方、エピファネイア産駒が真価を発揮してくるのは、やはり自身が得意とした芝の中長距離となりそうだ。決して仕上がりが遅いわけでは無いが、やはり、この時期の2歳戦は、短距離適性の高い種牡馬の後塵を拝してしまっている感がある。とは言えども、元々のトップスピードの高さと、安定した走りからすれば、キズナやリアルインパクトとはかち合わない場所で一気に頭角を現せるはず。そこはディープインパクト、ハーツクライといったリーディングサイアーの上位種牡馬たちが揃っているが、ここで互角に近い争いを繰り広げられるようなら、数年後のリーディングサイアーとなる可能性も開けてくると言えるだろう。

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