欧州2歳牝馬路線のフロントランナーたち

2019年07月10日(水) 12:00

オークスへ向けた長期前売りでは未出走馬が1番人気

 先週のこのコラムで、欧州2歳牡馬路線における現段階での有力馬たちをご紹介したので、今週は2歳牝馬路線における現時点でのフロントランナーたちをご紹介したい。

 ブックメーカー各社が9〜13倍のオッズをかかげて来年のG1千ギニー(芝8F,5月3日、ニューマーケット)へ向けた前売りの1番人気に推しているのが、ゴドルフィンのサマーロマンス(牝2、父キングマン)だ。

 半姉にG1コロネーションS(芝7F213F)や、G1モイグレアスタッドS(芝7F)を制したリジーナがいて、叔父に今年5月のG1イスパーン賞(芝1850m)勝ち馬ザビールプリンスがいるという良血馬がサマーロマンスだ。

 1歳秋にタタソールズ10月1歳市場に上場されて30万ギニー(当時のレートで約4782万円)でピンフッカーに購買された後、今年5月に行われたアルカナ2歳セールに上場され、80万ユーロ(当時のレートで約9982万円)というセール2番目の高値でゴドルフィンが購買している。

 チャーリー・アップルビー厩舎の所属となったサマーロマンスは、セールからほぼ1か月後の6月13日にヤーマスのメイドン(芝6F3y)でデビュー。4頭立ての2番手で競馬をした同馬は、残り300mで鞍上のJ・ドイルが仕掛けると一気に弾け、そこから2馬身抜け出して優勝。

 続いて出走したのが、6月29日にニューマーケットで行われたLRエンプレスフィリーズS(芝6F)で、序盤でやや行きたがる素振りを見せた同馬を、鞍上ドイルが宥めて3番手を追走。前走と同じく、残り300m付近でゴーサインが出ると、ここでは後続に6馬身差をつける快勝で無傷の連勝を飾った。

 血統背景はマイルまでの融通性を示唆しているが、気性的にこれ以上は燃えないことが、距離延長に対応できるかどうかの鍵となりそうだ。

 ラドブロークスとコーラルがオッズ13倍で2番人気に推しているのが、ダーヤー(牝2、父ベイテッドブレス)である。

 叔父にG2フライングファイヴ(芝5F)勝ち馬デポーティヴォ、同じく叔父にG3シュプリームS(芝7F)勝ち馬ソービラヴドがいるという血統背景を持つ同馬。父ベイテッドブレスは、G2テンプルS(芝5F)を制している他、G1キングズスタンドS(芝5F)2着、G1ジュライC(芝6F)2着、G1スプリントC(芝6F)2着などの成績を残したスプリンターだった。

 ドンカスター1歳市場という、やや格下の市場に上場されて7万5千ポンド(当時のレートで約1103万円)で購買され、ロジャー・ヴァリアン厩舎に入厩。

 5月18日にニューマーケットのノーヴィスS(芝6F)でデビューし、9頭立ての中団でレースを進めた後、残り250mで先頭に立つと、そこから1.3/4馬身抜けて初戦勝ち。

 続いて駒を進めたのが、ロイヤルアスコット4日目(6月21日)に組まれたG3オルバニーS(芝6F)で、ここも前半は中団での競馬となった後、残り350mを切る頃からセルティックビューティ(牝2、父ノーネイネヴァー)との馬体を併せての一騎打ちに。一旦はセルティックビューティが3/4馬身ほど前に出た後、残り100mからグイっと伸びたダーヤーが最後は1.1/2馬身抜け出す完勝で、無敗の重賞制覇を果たした。

 なかなか味のある競馬をする馬だが、血統的には前述したようにスピード色が濃厚で、距離延長には疑問符が付く。

 例えば、ウィリアムヒルは千ギニーの同馬に21倍という、ラドブロークスやコーラルとはやや隔たりのあるオッズを掲げており、評価の分かれるところとなっている。

 一方、6月5日にエプソムで行われるG1オークス(芝12F6y)へ向けた前売りで、ウィリアムヒルが26倍のオッズを掲げて1番人気に支持しているのが、エイダン・オブライエン厩舎のサルサ(牝2、父ガリレオ)である。

 クールモアの自家生産馬で、母はG2グロシェーヌ賞(芝1000m)やG3アランベルク賞(芝1100m)を制したビューティイズトゥルースだ。すなわち、今年春にG1英千ギニー(芝8F)、G1愛千ギニー(芝8F)を連覇したハーモサの全妹にあたるのが、サルサである。

 1歳年上の全姉に今年のクラシックホースがいるだけでなく、3歳年上の全姉にG1メイトロンS(芝8F)やG1ブリティッシュチャンピオンズ・フィリーズ&メアズS(芝11F211y)を制したハイドレンジアがいて、7歳年上の全兄に豪州のG1ランヴェットS(芝2000m)勝ち馬ザユナイテッドステイツがいるという超良血のサルサは、実は7月7日現在でまだデビューを果たしていない。

 未出走馬を前売り1番人気に掲げられているあたり、アンティポストベット(長期前売り)の醍醐味の1つで、楽しみ方としては、日本のPOGに相通じるものがあると筆者はかねてから見ている。

 現段階での勢力分布が、シーズンが進むにつれてどう変化していくのか、興味深く見守っていきたいと思う。 

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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