【キングジョージ6世&クイーンエリザベスS展望】凱旋門賞と双璧をなすレース

2019年07月24日(水) 12:00

シュヴァルグランにも買い要素はある

 3歳以上の芝12ハロン路線では、秋のG1凱旋門賞(芝2400m)と双璧をなすG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)の発走が、27日(土曜日)、現地時刻15時40分(日本時間23時40分)に迫っている。

 過去10年の勝ち馬のうち、10年のハービンジャー、17年のエネイブル、18年のポエッツワードは、それぞれの年のワールドランキング・芝Lカテゴリー(2101mから2700m)で世界首位となり、この路線の最強馬と認定されたのをはじめ、この3頭を含めて実に8頭までが、年間ランキングの芝Lカテゴリーでトップ3にランクインしている。すなわち、ここで勝利すればその瞬間に、2019年の世界の競馬を代表するサラブレッドの1頭に認定されるのが、”キングジョージ”だ。

 格式が高いだけでなく、今年の総賞金は、英国内ではダービー(150万ポンド)、チャンピオンS(130万ポンド)に次ぐ第3位の125万ポンド(約1億7500万円)と、英国のスタンダードからすると高額な賞金が設定されている。そんな至高の戦いに、今年は友道康夫厩舎のシュヴァルグラン(牡7、父ハーツクライ)が挑む。

 ヨーロッパのホースマンにとって、年間のカレンダーの中でも最も重要なレースの1つとなっており、過去10年の勝ち馬も2着馬も、全てヨーロッパ調教馬である。勝ち馬を国別に分けると、イギリスが7勝、ドイツが2勝、アイルランドが1勝となる。アイルランドの1勝というのは、16年に制したエイダン・オブライエン厩舎のハイランドリールだが、逆に言えば、あれだけの巨大戦力を誇り、なおかつ、ガリレオという12F路線の絶対権力者を背景に擁していながら、クールモアが10年で1勝しか出来ないあたりに、地元イギリスのホースマンのこのレースにかける熱量の凄まじさが感じられる。

 中でも特筆すべきは、過去10年で3勝、2着5回という成績を残しているサー・マイケル・スタウトだ。スタウトは08年以前にもこのレースを3勝しており、通算6勝というのは”キングジョージ”の歴代最多記録である。

 これに次ぐのが、過去10年で3勝、2着3回のジョン・ゴスデンで、このたった二人の調教師で、過去10年の連対馬20頭のうちの実に14頭を占めるのだ。

 そして、今年の”キングジョージ”で大本命となっているのはゴスデン厩舎のエネイブル(牝5、父ナサニエル)で、2番人気になっているのがスタウト厩舎のクリスタルオーシャン(牡5、父シーザスターズ)なのである。2頭の牙城が堅牢にして盤石に見えるのも、レースの背景を鑑みると当然のことで、彼等の間に割って入るのは容易なことではなさそうだ。

 ビッグステーブルが全力に獲りに来るレースゆえ、馬券的には固く収まる傾向にあるのが“キングジョージ”だ。過去10年で1番人気は7連対で、取りこぼした本命馬もいるのだが、代わりに来たのが伏兵というわけではないのだ。12年に5番人気で勝ったデインドリーム、17年に5番人気で2着にきたユリシーズが、いずれもオッズ10倍で、これが過去10年の連対馬20頭の中で最大のオッズだ。すなわち、オッズ11倍以上で連対した馬は、過去10年で1頭もいないのである。

 近年の傾向をさらに20年で探れば、性別に見ると牡馬17頭に対し、牝馬が3頭。年齢別に見ると、3歳が5勝、4歳が13勝、5歳が2勝で、6歳以上はいない。

 前哨戦で見ると、本番と最も相性が良いのが、過去10年で6頭の連対馬を出しているロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(芝11F211y)で、今年はここを勝っての参戦となるデフォー(牡5、父ダラカニ)が
これに該当する。これに次ぐのが、4頭の連対馬を出しているサンダウンのG1エクリプスS(芝9F209y)で、ご案内するまでもなく今年の勝ち馬はエネイブルだった。

 過去の傾向を列挙すると、シュヴァルグランにネガティヴな材料ばかりが出て来るが、しかし、凱旋門賞と比べると、日本馬の参戦が遥かに少ない”キングジョージ”だけに、冷静に考えれば日本馬にとってポジティヴな材料が出て来るわけがないのである。

 言うまでもなく、買える要素もシュヴァルグランにはある。

 前述したように、過去のキングジョージがほとんどヨーロッパ選手権となっている中、06年に勝ち馬から半馬身+半馬身差の3着に健闘したのが、シュヴァルグランの父ハーツクライである。お時間のある方、映像でぜひ06年の”キングジョージ”をご覧いただきたい。ハーツクライが残り300mで先頭に立つ瞬間は、結果がわかっていても鳥肌モノで、日本調教馬の海外における競馬としては、エルコンドルパサーが2着となった99年の凱旋門賞に次ぐ、超絶パフォーマンスである。グリーンチャンネルで7月26日に放送する「Go Racing!」の中でも06年の”キングジョージ”はノーカットでご紹介するので、ぜひ
ご覧いただきたいと思う。

 そして、ハーツクライとシュヴァルグランは、いずれも前走がドバイのG1シーマクラシックで、同じローテーションを踏んでの参戦となっている。

 前述したように、エネイブルとクリスタルオーシャンの牙城は強固で、これまでこの2頭と一緒に走ってきた馬たちが、ここで2頭を逆転する可能性は、限りなくゼロに近いと見ている。

 2頭にひと泡ふかせることが出来るとしたら、3歳世代から急速に台頭する馬が現れるか、日本からの刺客シュヴァルグランしかいないというのが筆者の見解である。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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