2019サマーセール、大盛況にて終了

2019年08月28日(水) 18:00

史上最高に迫る売り上げも、主催者側としての悩みは…

 8月19日(月)に始まったサマーセールは、22日(木)で全日程を終了し、1197頭(牡680頭、牝517頭)が上場され、そのうち859頭(牡518頭、牝341頭)が落札され、49億3765万2000円(税込) を売り上げた。売却率は前年比1.86%増の71.76%。また総売り上げは前年より7億2133万2000円の増加であった。

 平均価格は574万8140円(牡653万2541円、牝455万6587円)。前年比で78万7764円の増加となり、サマーセール史上最高の売り上げを記録した一昨年(2017年)の574万9465円に迫る数字となった。

 セール3日目の21日(水)。初日2日目と続いて70%台の売却率を維持しつつ、売り上げも12億円台で順調に推移していたセールは、この日ピークを迎えた。天候にも恵まれた3日目は、306頭(牡176頭、牝130頭)が上場され、終わってみれば、235頭(牡144頭、牝91頭)が落札、売却率は76.79%に達し、4日間を通じて最も高い数字を叩き出した。売り上げは13億5442万円。当初、1日10億円の売り上げを目標に掲げていた主催者も、3日目終了の時点で38億5000万円超となり、目標をクリアするどころか、大幅に上方修正しなければならないほどの好況を呈した。

 サマーセールにおける最高落札馬も、この3日目に登場した。正午に始まったセリ開始直後(4頭目)に上場された640番アドマイヤカグラの2018が、2916万円(税抜き2700万円)でエンジェルレーシング(株)に落札され、これが4日間で最も高額であった。

生産地便り

サマーセール最高価格馬「アドマイヤカグラの2018」落札場面

 父ルーラーシップ、母の父スペシャルウィークの牡鹿毛。新冠橋本牧場の生産、飼養管理馬である。半姉にアドマイヤナイト(父アドマイヤムーン、千葉日報杯など4勝)、半兄にキングラディウス(父キングカメハメハ、3勝=現役)などがいる。

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「アドマイヤカグラの2018」の立ち写真

 抜けた高額馬こそ出なかったものの、総じてこの日は、安めの価格から2000万円台まで、幅広く売れた印象だ。とりわけ目についたのは、各地方競馬の団体購買であった。

 千葉県、東京都、兵庫県、石川県などが、それぞれ補助金を交付し1歳馬購入を奨励していることから、そうしたひとびとによる積極的な落札が数多く見られた。

 どの価格帯でも万遍なく落札されており、細かな単位(といっても100万円以上になると10万円単位でしか競ることができないが)での心理戦も展開され、セリの進行はひじょうに時間を要した。

 3日目は最大306頭の上場頭数になっていたことと、売却率が前述のように76.79%に達したことで、最終番号の上場馬がステージに登場した時には時計の針は午後7時15分になっていた。その後、再上場馬が2頭セリにかけられたので、全ての取引が終わったのは7時20分。あたりはもう真っ暗であった。

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最後の上場馬が登場時には午後7時を過ぎていた

 売れれば売れるほど時間がかかるのは致し方ないことではあるが、ここまで終了が遅くなると、翌日に差し支える。上場馬の多くが日高管内各地に点在するコンサイナー(育成牧場と兼業の場合が多い)によって仕上げられ、セリ会場にやってくる。コンサイナーは翌日もまた上場馬を抱えており、馬の入れ替えを行なわなければならない。暗くなってから馬運車に馬を乗せ、翌日のセリのために、牧場との往復をするのである。表には出ないこうした苦労によってセリが支えられている。

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終了が遅いので撮影にも難儀する

 セール最終日(22日)。天候悪化が心配される日であったが、幸い、降雨は一時的で、概ね曇り空で経過した。最終日には296頭(牡185頭、牝111頭)が上場され、198頭(牡131頭、牝67頭)が落札、売却率は66.89%であった。さすがに前日から10%落ちたとはいえ、それでも3頭に2頭が売れたことになる。売り上げは10億7827万円。平均はやや落ちて544万5818円。しかし昨年の最終日と比較すると、平均価格は90万円超の上昇である。

 最終日には、次点の高額馬が出た。1137番ドゥオナーの2018(牡鹿毛、父バゴ、母の父ダンスインザダーク)で、2592万円(税抜き2400万円)で(株)カナヤマホールディングスが落札。生産は新ひだか町・増本良孝氏、飼養管理者は(有)福山育成牧場。叔母にオノユウ(エーデルワイス賞など5勝)、半兄にシゲルコング(父シニスターミニスター、全日本2歳優駿2着)がいる。

 また最終日には、サマーセール恒例となった北海道立静内農高生産馬(1217番マドリガルスコアの2018)が登場し、会場が湧いた。こちらは、複数のバイヤーが10万円刻みで値を吊り上げて行き、362万円(税抜き340万円)で富樫賢二氏が落札した。

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静内農高生産馬“桜翔”が落札された瞬間
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“桜翔”こと「マドリガルスコアの2018」立ち写真

「高校生が育てた馬だから何とかしてあげようと思いセリに参加しました。中央でデビューさせようと思います。美浦に入れます」とは富樫氏の弁である。

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落札後の記念写真

 4日間にわたり開催されたサマーセールは22日で終了し、好調に推移した結果について日高軽種馬農協・木村貢組合長は「売り上げは予想をはるかに上回る結果で驚いています。地方競馬の馬券売り上げが伸びていて、それにより地方の馬主さんによる活発な購買が好結果に繋がったと思っています。最高額はそれほど高くなかったのですが、むしろ全体の底上げの方が大切と考えています。売れるセールほど時間がかかるとは思うのですが、今後は上場頭数を1割減らすことを目指したいですね。理想的にはセプテンバー、サマーともに3日ずつくらいの配分になってくれると助かるのですが。購買登録者数は1127名に達し、昨年より141名の増加です。また次回、セプテンバーセールを開催しますのでぜひ多数のご来場をお願い申し上げます」と語っていた。

 生産馬の売却を、できればセレクション、それが無理ならばサマーで、というのが一般的な生産者の希望だが、主催者としては、オータムまでの各セールに万遍なく上場頭数を「散らしたい」意向のようだ。しかし、生産者側はオータムまで引っ張るのは抵抗があり、そこに齟齬が生じる。解決はかなり難しいが、例えば、セレクション〜オータムまでの各セールで販売手数料を変える(時期が遅くなるほど率を低くする)とか、セプテンバーとオータム両セール取引馬に別途報奨金を交付するなどの措置を講じなければ、この傾向(サマーセールに集中する)はなかなか改善しないだろうと思われる。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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