地方競馬の好景気を反映するサラブレッド市場

2019年10月02日(水) 18:00

競馬場の景気動向は、即座に生産地経済に反映される

 先月のセプテンバーセールもまずまずの成績を残し、このところサラブレッド市場は活況が続いている。多くの関係者が、「オリンピックまでは好景気が続くだろう」と見ていた通り、今年の日高で開催された各市場でも、全て売り上げ目標をクリアしており、オータムセール(10月15日、16日)を残した段階で、すでに107億円を超えている。

生産地便り

セプテンバーセール会場風景

 この好調の要因は、まず旺盛な購買者の購買意欲にあるわけだが、その購買意欲を支えているのが、まずひとつには地方競馬の馬券売り上げの順調な伸びが挙げられる。

 どのくらい“順調”なのか、について以下に数字を示してみたい。直近の地全協が発表しているデータから引用させて頂くと、今年度4月〜7月の各場の売り上げは次の通りである。(10000円以下省略)

ばんえい 43日間 総額83億365万円  一日平均1億9310万円 (前年比128.0%)
門別   37日間 総額148億7373万円 一日平均4億199万円 (前年比125.7%)
岩手   52日間 総額162億1207万円 一日平均3億1177万円 (前年比114.5%)
浦和   15日間 総額144億720万円  一日平均9億6048万円 (前年比112.1%)
船橋   19日間 総額230億5985万円 一日平均12億1367万円(前年比108.2%)
大井   34日間 総額536億5817万円 一日平均15億7818万円(前年比116.3%)
川崎   23日間 総額269億6584万円 一日平均11億7242万円(前年比112.4%)
金沢   36日間 総額95億7125万円  一日平均2億6586万円 (前年比111.3%)
笠松   26日間 総額77億7312万円  一日平均2億9896万円 (前年比125.5%)
名古屋  36日間 総額131億4466万円 一日平均3億6512万円 (前年比113.9%)
園田   53日間 総額255億7421万円 一日平均4億8253万円 (前年比119.8%)
高知   30日間 総額115億2886万円 一日平均3億8429万円 (前年比128.2%)
佐賀   35日間 総額87億6599万円  一日平均2億5045万円 (前年比126.7%)

 以上が今年度の前半4ヶ月分の数字である。分かりやすいように、10年前の数字と比較してみよう。2009年度は次の通りであった。

ばんえい 42日間 総額29億2027万円  一日平均6953万円
北海道  33日間 総額43億6763万円  一日平均1億3235万円
岩手   51日間 総額86億686万円  一日平均1億6876万円
浦和   15日間 総額107億9704万円 一日平均7億1980万円
船橋   15日間 総額112億8231万円 一日平均7億5215万円
大井   40日間 総額408億33万円  一日平均10億2000万円
川崎   23日間 総額173億5065万円 一日平均7億5437万円
金沢   36日間 総額43億9637万円  一日平均1億2212万円
笠松   31日間 総額39億6031万円  一日平均1億2775万円
名古屋  32日間 総額49億9563万円  一日平均1億5611万円
*福山   27日間 総額22億4126万円  一日平均8300万円
高知   30日間 総額12億5056万円  一日平均4168万円
佐賀   31日間 総額30億1502万円  一日平均9729万円
*荒尾   22日間 総額14億4154万円  一日平均6552万円
※北海道は門別、札幌の合計

 わずか10年間しか経過していないのだが、この数字の違いには唖然とさせられる。2009年にはまだ福山と荒尾が開催を続けていたものの、この数字を見ると、どれほど財政状況が厳しかったことかと驚かされる。開催日数により総額はやや上下するので、比較しやすいのは一日平均の売り上げだが、10年前には1日1億円に達していない競馬場が何と多かったことか。

生産地便り

門別競馬場のナイターがスタートした2009年に行われた、エトワール賞のゴール前写真

 周知の通り、この後、インターネット網による全国的な発売体制が徐々に拡充して行き、各場の売り上げは爆発的に伸びてきた。もともと馬券売り上げの多かった南関東4場こそ伸び率はそれほどでもないが、その他の地方競馬は、軒並み2倍以上、中には高知のように、実に9倍もの驚異的な伸び率を記録しているところもある。

 ただ、こうした売り上げ好調に対して、各主催者がそれほど手ごたえを感じていない(らしい)実情を耳にする。この間の数字の上昇は、偏に発売体制の拡充によるもので、入厩馬のレベルが飛躍的に向上したわけでもなければ、レース内容が格段に進歩したわけでもない、ということ。「(主催者としては)何もしないうちに売り上げだけがどんどん増えた」などという“本音”も聞こえてくる。

 そんな話を伝え聞くと、何とも心もとない気がしてくる。それでは近いうちにまた「何もしないうちに売り上げが下がってしまう」時代がやってくるような気がするからだ。

 そして、競馬場の景気動向は、即座に生産地経済に反映してくる。売り上げ好調の今のうちにできるだけの施策を打ち出し、実行して頂きたいと思う。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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