ファンが立ち上げたビッグゴールドサポーターズクラブ(4)周囲からの愛に応えるように…走り続けた10年間

2019年11月26日(火) 18:00

第二のストーリー

金沢で走り続けたビッグゴールド(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

地方での活躍も見守り続け…

 ビッグゴールドの担当厩務員に引退後の引き取りの意志を伝えた岡本義徳さん、朋子さん夫妻は、ゴールドの満11歳の誕生日、3月19日に合わせて厩舎に人参を送った。この頃、ビッグゴールドは、新たな馬主に変更になっている。

 4月5日、出走レースに合わせて金沢に7回目の訪問。この時初めてファンでもある知人が制作したビッグゴールドの応援幕がパドックに張られ、レースでは2着に入る。その後も4月19日(2着)、5月3日(3着)とレースの応援を兼ねて金沢に車を走らせた。住まいのある埼玉県から金沢競馬場のある石川県に通うには、ガソリン代、高速代もバカにならない。だが2009年3月から実施された「土日祝日、高速料金1000円」(2011年6月19日終了)が岡本さん夫妻の味方になり、埼玉県と石川県を何度も往復することができたのだという。

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ビッグゴールドの応援幕(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 10回目の訪問は6月21日。応援に行けなかった5月17日(4着)ののち、出走を予定していた開催に出走しなかったことから、訪問を決めた。訪ねてみると、蕁麻疹が出た影響での回避で、馬自体は至って元気でホッと胸を撫で下ろした。

 この頃、他からもゴールドの引退後の引き取りの希望があったことが、人づてに岡本さん夫妻の耳にも入ってきた。それもあって11回目の訪問となった6月28日に、加藤調教師にも正式にゴールドの引退後の引き取りを申し出た。折しもこの日、ゴールドがおよそ3年振りに勝利を挙げた嬉しい日でもあり、知人と連名でお祝いの花を贈っていた。引き取りについて加藤調教師からは「馬主にも話をしておきます」との返答を得た。

 7月14日のレースで2着に入ると、夏の暑さに弱いからと前年同様に夏休みをもらった。

「厩舎や馬主さんに大切にされていることに感謝でしたね」(岡本義徳さん)

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3年ぶりの勝利に贈ったお花(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 岡本さん夫妻はゴールドが夏休み中の8月22日から、まだ元気に現役を続けている姿をたくさんの人に知ってもらおうと「ビッグゴールド応援ブログ」を開始した。

 9月7日、夏休み明けのゴールドは、岡本さん夫妻が見守る中、その年2勝目を飾り、お祝いの花を届けた。

「休み明けでまださほど強い調教をできていない中での勝利でしたが、2走前に勝ったことで、やる気がでてきたように感じました」(義徳さん)

 9月20日、13回目の金沢訪問で、ゴールドは1着となり、これで2連勝。レースを終えて厩舎で加藤調教師と1時間ほど歓談する。その中で「馬主さんにも承諾を得ているので、引退後はよろしくお願いしますと加藤先生から言って頂きました」(義徳さん)

 こうしてゴールドの引退後は、岡本さん夫妻に託されることにほぼ決まった。調教師や担当厩務員と連絡を取り、埼玉県からはるばる金沢まで幾度となく足を運ぶうちに、自然と両者の間に信頼関係が築き上げられていたのが、要因の1つだったと考えられる。

 10月18日も金沢競馬場に赴いてゴールドを応援する。クラスが上がり、メンバーも強化されている中で完勝して3連勝を飾り、お祝いの花を届けた。

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プロキオン特別で完勝したビッグゴールド(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 この後は11月17日(7着)と、岡本さん夫妻にとって2009年最後の訪問となった12月6日(4着)の2戦で、その年を終えた。

「加藤先生と担当厩務員さんから、馬に気持ちがあるうちは走らせてあげたいと話がありました」(義徳さん)

 こうして12歳を迎える2010年の現役続行が決まった。

 2010年は1月3日がゴールドの年明け初戦と予定されており、この日も岡本さん夫妻は応援幕を作ってくれたファンとともに金沢競馬場にいた。だが雪が降りやまず、降雪のためにパドックを2周したところで競馬自体が残念ながら中止になる。

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降雪で競馬が中止になってしまった1月3日(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 金沢競馬が冬休み期間中の2月8日に、美浦トレセン内の馬具店で黒地に金色の刺繍で「gold」の文字の入ったメンコを発注し、2月14日には厩舎に人参を、3月19日のゴールドの誕生日には、出来上がったメンコと人参を送っている。

 競馬開催が休みでも、このように岡本さん夫妻は何かしら行動を起こしていた。この適度な距離感でのマメさも、厩舎サイドから信頼を得、ゴールドの引き取りが認められた理由の1つのように思う。

 冬休み明けの4月11日には、プレゼントしたGOLDの金文字入りメンコを着けて初めて出走する。あいにくの不良馬場だったが、ゴールドはメンバー中最速の上がりで4着に追い込んできた。この日は中央から金沢にゴールドと一緒に移籍してきた僚馬ビッグドンが、2年振りに重賞に勝利した。ちなみにビッグドンとゴールドは、同じ厩務員が世話をしている。

「厩務員さんはいつも、この2頭と一緒にいられて幸せですと言ってくださっていました」(義徳さん)

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岡本さん夫婦がプレゼントしたメンコをつけて(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 18回目の金沢訪問となった4月25日には、見事にトップでゴール板を駆け抜けた。メンバー中最速の上がりで、豪快に差し切り勝ちを見せる。陣営は良馬場なら負けない自信があったようだが、12歳になっての勝利に岡本さん夫妻は大いに感動し、花を届けた。

 19回目の金沢訪問の際には、不良馬場で相手関係も強化された中で、良い脚で追い込んできての4着だった。

「厩舎サイドは、良馬場ならもっとやれる手応えがあったようですね」(義徳さん)

 金沢の重賞・百万石賞が開催される6月20日、金沢訪問も20回を数えた。この日はゴールドの出走はなかったが、いつものように手土産と人参持参で厩舎を訪問する。年齢的なものか、レース後に疲れが残って、回復に時間を要するようになっていると、厩務員からゴールドの現状を聞かされた。

 7月4日、21回目の金沢訪問。この日はまたしてもメンバー最速の上がりで4着に追い込む。レース後に厩舎を訪問すると加藤調教師から話があった。

「今年度で引退させてあげたい、馬主さんの了承も得ている、引退の時期に関しては馬の様子を見ながらということでしたので、先生にお任せしますとお願いをしました」(義徳さん)

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7月4日、渡り鳥の楽園舳倉島特別にて(提供:ビッグゴールドサポーターズクラブ)

 8、9月は例年通り夏休みをもらい、秋初戦は10月5日。岡本さん夫妻も金沢に向かった。この日も重馬場だったが、よく追い込んでの4着に健闘した。

厩舎サイドはあと2戦走らせる予定で調整をしていたが、10月10日に加藤調教師から義徳さんに電話がかかってきた。

「脚元の様子が思わしくなく、これ以上無理をさせられないので引退させたい、現在馬主さんと調整をしているとのことでした」(義徳さん)

 電話連絡から1週間後の10月17日に、岡本さん夫妻は金沢入りした。23回目の訪問だった。

「加藤先生と厩務員さんから正式に引退後の引き取りをお願いされ、ゴールドのこれからの馬生を見させて頂くことになりました」(義徳さん)

 ビッグゴールドは、岡本さん夫妻と新たな馬生を歩んでいくことになった。

(つづく)


ビッグゴールドサポーターズクラブ

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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