2020年「西舎神社騎馬参拝」

2020年01月08日(水) 18:00

新春恒例の伝統行事に参拝客が集まる

 新春2日、恒例の「騎馬参拝」(浦河町騎馬参拝実行委員会主催)が町内西舎の西舎神社にて行なわれた。

 今年の元旦は、久々の「雪なし」で迎えた。大晦日に雨が降り、わずかに積もっていた雪もすっかり溶けてしまったために、珍しく地面が露出した状態でのお正月になった。年が明けてからも、比較的晴天に恵まれており、今日(8日)現在でも、ここ浦河町の積雪はほぼゼロである。

 2日は、朝から珍しく雪が降り続き、騎馬の隊列が西舎神社に到着した午前10時半頃にはピークとなった。乗用馬8頭とポニー6頭が参加し、それぞれ隊列を組んで国道に面した鳥居をくぐってくると、集まった約200人の参拝客は一斉にカメラを向けたり、歓声を上げたりして迎えた。

生産地便り

大型馬到着の様子

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ポニー少年団到着の様子

 一行は社殿前まで進むと、そこで下馬し、社殿の左右の待機スペースに馬を移動させ、改めて正面に並び、今年一年の家内安全と愛馬の無病息災を祈願した。

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参拝するポニー少年団と近藤会長

 騎馬隊が到着してからは、JRA日高育成牧場の高嶋民治場長を始め、北海道議会議員の金岩武吉氏、浦河町の池田拓町長などが代表して社殿前で参拝し、騎馬隊の引き上げを見送った後には、恒例となった餅撒きが盛大に行なわれ、「福餅」を拾う多くの人々でにぎわっていた。

 当初、今年の騎馬参拝には大小合わせて21騎が参加する予定と聞いていたが、その後、頭数が減り、計14頭(大型馬8頭、ポニー6頭)に縮小された。かつて浦河神社で実施されていた騎馬参拝では、101段ある石段駆け上がりを敢行し、それが大きな話題を呼んで毎年多くの見物客で大賑わいであった。それも2009年を最後に休止となり、現在、騎馬参拝は、この西舎神社のみで粛々と続けられている。

 100年続いた伝統行事(浦河神社騎馬参拝)が休止のやむなきに至ったことで、今でも一部に石段駆け上がりの復活を望む声があるのは事実だ。しかし、休止して以来11年が経過し、もう復活はかなり困難、というより、事実上不可能に近い状態だろう。

 古い写真を見返すと、ぎっしりと詰めかけた多くの参拝客の間を、はるばる10キロ余の道のりを進んできた騎馬隊が鳥居をくぐり境内に入って、石段の前で神事を行い、それから1頭ずつ石段を駆け上がって行く勇壮な姿を懐かしく思う。

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騎馬隊の石段駆け上がり

 見せ場たっぷりのこの騎馬参拝は迫力満点で、参拝客はハラハラドキドキしながら、その姿に注視していた。大型馬のみならず、ポニーも多くの子供たちを乗せて、次々と石段駆け上がりに挑戦していた。もちろん、左右に大人がついて手綱を握り、安全面に配慮しての駆け上がりではあったが、大人も子供も真剣そのもので、見ている側も緊張してくるような場面の連続であった。

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ポニー少年団の石段駆け上がり

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ポニー少年団のパレード

 その時代から比べると、現在の西舎神社の騎馬参拝は、石段がなく、フラットな境内を移動してくるので、安全面では申し分ない条件にはなっている。ただ、その分、「見せる要素」がやや乏しくなった印象は否めない。それをカバーするには、例えば、できるだけ多くの騎馬を揃えたり、服装を統一したり、などが考えられるが、浦河町に限らず、生産地全体が、少子高齢化と過疎化に悩み、牧場軒数は減少の一途である。そのため、育成現場を中心として、不足する労働力を多くの外国人に頼っているのが現状だ。

 こうした行事のひとつひとつが、携わる関係者の確保に悩み、何とか現状維持を死守しているのが実態だ。今後もこの種の伝統行事を守って行くには民間活力が不可欠だが、それには、この町に数多くいる「騎乗者(インド人が最も多い)と馬」をいかに活用して行けるかがカギになるだろう。

 BTCでは新春2日、早くも今年デビュー予定の2歳馬の調教が始まっている。ある育成牧場関係者は「騎馬参拝?無理だね。今日から乗り始めているので、とてもじゃないが見に行けない。本当は騎馬参拝に参加するくらいの余裕が欲しいけど、現状では厳しい。うちもインド人に頼り切りで、とてもそんな余裕はないね」と言いながら、調教場に向かって立ち去った。伝統行事の維持は、なかなか前途多難だ。

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坂路コース調教風景

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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