これほど票が割れるとは 記者たちを悩ませたJRA賞競走馬部門選定の舞台裏

2020年01月27日(月) 18:05

教えてノモケン

▲年度代表馬に選ばれたリスグラシュー (撮影:下野雄規)

 昨年度のJRA賞受賞馬が1月7日、東京都内で行われた選考委員会で決まった。年度代表馬には、国内外でGIを3勝したリスグラシュー(牝6)が、記者投票で全274票中271票という圧倒的支持で選定された一方、今回は部門賞受賞馬のうち3頭が、投票で過半数(138票)を割った。

 現在は3分の1以上の得票(今回は92票)で選定されるとはいえ、これほど票が割れた部門が多かったのは近年では珍しい。背景に何があったのか?

3歳世代の低調さを反映

 得票が過半数割れの受賞馬は、最優秀3歳牡馬サートゥルナーリア(124)、最優秀3歳牝馬グランアレグリア(121)、最優秀4歳以上牡馬ウインブライト(136)の3頭。投票資格を持つ記者の間で、早くから「難しい」という声が漏れていた部門だった。

 特に3歳世代は、牡牝とも三冠タイトルを別な馬が分け合った上に、当該馬同士の直接対決がないケースもあった。3歳牝馬の場合、桜花賞馬グランアレグリアがNHKマイルC、阪神Cと距離の短い路線を歩んだため、オークス馬ラヴズオンリーユーとは未対戦のまま。

 牡馬クラシックでも、日本ダービー馬ロジャーバローズが故障で早々に引退。菊花賞馬ワールドプレミアなど、多くの有力馬と顔を合わせずに終わった。加えて、香港マイルを3歳馬として初めて制したアドマイヤマーズ、無敗でチャンピオンズCを制したクリソベリルという別路線組もいた。

 18年度も最優秀3歳牡馬は、選定馬(ブラストワンピース)が唯一、投票で過半数に届かなかった。今回と同様、三冠タイトルが分かれ、三冠勝ち馬以外から古馬混合GIを勝つ馬が現れたためだが、前年に比べると今回は低調だった。

 18年はアーモンドアイ、ステルヴィオ、ルヴァンスレーヴ、ブラストワンピースと、4つの古馬混合GIで3歳勢が優勝。19年は国内ではクリソベリル1頭だけで、世代レベルの低さが目立った。

 結局、3歳牡馬部門では、サートゥルナーリアが124票でアドマイヤマーズは107票。9人が態度を変えていたら結果も違っていた際どい決着だった。アドマイヤマーズはNHKマイルCも勝って国内外GI2勝だが、皐月賞ではサートゥルナーリアに先着を許し4着。秋初戦のGIII、富士Sで崩れたのも印象点を落としたか。

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▲3歳牡馬部門は、際どい決着でサートゥルナーリアに (撮影:下野雄規)

 無敗でチャンピオンズCを制したクリソベリルは24票で、似たような立場だった前年のルヴァンスレーヴ(69票)より、はるかに票数が少なかった。「投票しても選定されなくては意味がない」という「死票回避」心理が働いた結果かも知れない。

 3歳牝馬部門も、近年の豊作ぶりとは様変わりで、エリザベス女王杯でラヴズオンリーユーが3着、秋華賞馬クロノジェネシスが5着と連対もできなかったのが象徴的だ。ジャパンC2着のカレンブーケドールがもし勝っていればともかく、12月20日の時点ではラヴズオンリーユーが本命視されていた。

 だが、21日の阪神C(GII)でグランアレグリアが5馬身差の圧勝。投票直前だから効果てきめんで、結局は121票を獲得。99票のラヴズオンリーユーを“逆転”した。19年はGII以下でも3歳世代の存在感が薄く、逆に「スーパーGII」タイトルの価値が上がった。

海外タイトルをどう評価するか?

 最優秀4歳以上牡馬部門も、ウインブライトとインディチャンプに票が割れ、ウインブライトが18票差で選定されたが、136票は過半数に2票足りなかった。ウインブライトは年明け早々に中山金杯、中山記念と連勝。さらに香港・シャティンで春と暮れに芝2000mGIを2勝した。・・・

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野元賢一

1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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