10年間走り続けたオリジナルステップの思い出 高知・あしずりダディー牧場(3)

2020年06月09日(火) 18:03

大記録保持者の素顔は…怖がりで甘えん坊

 サラブレッド最多勝(45勝)の記録を保持(2012年当時)していたオリジナルステップが、あしずりダディー牧場にやってきたのは2012年3月22日のことだった。

 オリジナルステップは、2000年5月5日に北海道浦河町の浦河山口牧場で生を受けた。父ブラックタイアフェアー、母ダイナソシエ、その父ノーザンテーストという血統だ。通算4勝を挙げ、メジロドーベルが優勝した1997年のオークス(GI・9着)にも出走していたハナノメガミが半姉にあたる。そのハナノメガミは母となって、2015年の京都金杯(GIII)勝ちのウインフルブルームを送り出している。
 
 オリジナルステップ自身は、船橋の林正人厩舎の管理馬として2002年8月30日に船橋競馬場の新馬戦でデビュー。初陣は5着だったが、2戦目で初勝利を挙げている。その後、船橋と川崎で4戦を消化して高知競馬へと移籍。新天地では打越初男厩舎の管理馬となり、ここから引退するまでほぼ高知競馬(一時期、兵庫に移籍)で走り続けた。

 高知初戦は2003年1月2日の初月特別で、4番人気4着という結果に終わったが、6月8日のとでんサウナ特別において、高知初勝利、通算2勝目をマークした。2003年は高知で3勝し、その中には10月26日の黒潮菊花賞での重賞勝ちも含まれている。2004年はクラス編成の関係もあって重賞出走はなかったが7勝。2005年は幸先よく1月1日に元旦特別での勝利を皮切りに9勝を記録。またこの年の7月6日から翌2006年5月5日までは兵庫県の園田、姫路競馬場で17戦5勝の成績を収めて、高知へと戻ってくると再び打越初男厩舎の管理馬(2011年3月27日のレースからは細川忠義厩舎)となった。

 2006年は兵庫1勝と高知での3勝で計4勝。2007年も4勝にとどまったが、珊瑚冠賞3着と重賞でも好走している。2008年は珊瑚冠賞での重賞勝ちを含めて計8勝、2009年は4勝だったが、2着のトレノ賞をはじめ前年に引き続いて重賞競走に6回出走している。10歳を迎えた2010年は2勝で、ここまで通算42勝。当時のサラブレッドの最多勝利に近づきつつあった。2011年3月6日のファイナルレースで勝利して通算43勝となり、栃木の怪物・ブライアンズロマンの持つ記録に並ぶと、4月23日の大蛇藤まつり特別で優勝して、通算44勝。ついにブライアンズロマンの記録を抜いて、サラブレッド最多勝利馬となった。

 さらに9月23日のほろよい土佐路特別でもトップでゴールインして、通算45勝を記録している。2012年も現役生活を続け、4戦を消化してたが、右前肢の故障のために引退が決まり、結果的に前年のほろよい土佐路特別が最後の勝利となった。2歳から12歳まで長きに渡って走り続け、202戦45勝という大記録を打ち立てたオリジナルステップの引退セレモニーは、2012年3月4日高知競馬場で行われている。

 そして3月22日に、やはり高知競馬で走っていた芦毛のテラノリファードとともにあしずりダディー牧場の一員になった。

 実はオリジナルステップは、2016年9月28日に残念ながら16歳で天に召されている。宮崎さんは彼の思い出を語ってくれた。

「オルちゃんと呼んでいました。性格は怖がりでしたね。気が弱いというか…。駈けている時は素晴らしい走りを見せてくれていたのですけど、ちょっと物音がしたらピクンとするし、ちょっとしたことで怯えて厩舎から出てこなかったり、張り場(洗い場)に張った時にも急に驚いて暴れ出すこともありました」

 そんな気の小さい面のあるオリジナルステップは、甘えん坊でもあった。

「頭を下げて胸に頭をつけてきて、首や頭を撫でてという仕草をしてきました。本当に可愛いかったですよ。私たちを信頼してくれているのはわかりました。甘えん坊の怖がりですね。まあどの子も馬は可愛くて、憎らしいと思う馬は1頭もいないですね」

 高知競馬場で数多くコンビを組んできた宮川実騎手が、会いに訪れたこともあったという。

「僕を覚えているかい? と宮川騎手は話しかけていました(笑)。一緒に写真も撮って行かれましたよ」

第二のストーリー

高知競馬の宮川実騎手とオリジナルステップ(提供:あしずりダディー牧場)

 宮川騎手は202戦中120回騎乗して32勝を挙げており、お互いに良き相棒という関係だったと想像できる。

いつも通りの朝…が一転

 そして2016年9月28日、運命の日を迎える。

「その日も入口から1番手前にいるオリジナルステップが頭を振って喜んでいました。お腹もすいていますから、餌を早くほしいといつものように鳴いていたんですよね。そして飼い葉もきれいに完食していました」

 いつもと変わらない様子だったオリジナルステップだったが、間もなく体に異変が生じた。馬房の掃除をしていた女性が、オリジナルステップが座ったまま立とうとしないと報告に来たのだ。

「馬房がきれいになったら座ることもあるだろうから、少し様子を見ているうちに立つのではないかと話していたのですけど、立ち上がろうとするけど立てないという感じで、これはおかしいと思い始めました。聴診器を当ててみたら腸が動いていないような気がしたので、疝痛かもしれないと獣医さんに電話をしました。一応痛み止めを飲ませてはいましたけど、痛がるような感じでもなかったんですよね。

 ところが段々脂汗をかいてきて、全身に汗をかいて、息も荒くなってきました。獣医さんも30分くらいで来てくれて、点滴や痛み止めなど様々な処置をしてもらっていたのですが、突然のけぞるような感じになって、痙攣を起こしてそのまま息を引き取りました」

 原因がまるでわからなかった。腸が動いていないような感じもあったが、痛みを訴える様子もなかった。その日の朝まで元気で、きれいなボロ(馬糞)も出ていた。だが宮崎さんには1つ気になっていたことがあった。

「放牧場で元気に走っていたのですけど、戻ってきた時に鼻から出血していることがあったんですよね。そういうことが時々繰り返されるようになってからの出来事だったので、もしかするとどこかの血管が切れたか何かしたのかなと。それまで健康でしたし、他に原因はないですよね」

 手探り状態で始めた牧場だったが、宮崎さんは日々経験を重ね、勉強をし、馬の命を大切に思って過ごしてきた。だがオリジナルステップの生涯は、突然終わってしまった。その時の気持ちが蘇ってきたのか、電話口から聞こえてくる宮崎さんの声は沈んでいた。

(つづく) あしずりダディー牧場では「ダノンゴーゴーを支える会」を立ち上げ、1口5000円(全20口)でダノンゴーゴーの余生を支援する会員を募集する予定。支援したいという方は、宮崎栄美さん携帯:090-3182-4138まで。


▽ NPO法人 あしずりダディー牧場 命の会 HP

http://www.horsetrust-ashizuri.com/

▽ NPO法人 あしずりダディー牧場 命の会 Facebook

https://www.facebook.com/daddyranch/

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

関連情報

新着コラム

コラムを探す