2020年06月11日(木) 12:00
アーモンドアイが安田記念で2着に敗れ、シンボリルドルフ、ディープインパクトら歴代の名馬を超える、芝GI8勝目を挙げることはできなかった。記録更新へのチャレンジは、秋に持ち越しとなる。そのチャレンジをライブで見られる状況になっていることを祈りつつ、楽しみに待ちたいと思う。
「芝GI8勝」が壁となっているのはなぜか。それをテーマに安田記念のプレビューを書いてほしいとナンバーウェブの担当編集者に言われた。彼が提示してきたタイトル案は「ルドルフの呪い」だった。が、それだとルドルフが後世の日本の競馬の発展を望んでいないかのように響くので、「ルドルフの呪縛」とした。これなら、「壁」を意識しているのはルドルフの記録を超えようとする人馬ということになる。
シンボリルドルフが史上初めて無敗の三冠馬となったのは1984年のことだった。中央競馬にグレード制が導入された年でもあった。そのルドルフが史上最多の芝GI7勝を挙げて以来、肩を並べるところまで来た馬は、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、そしてキタサンブラックと、アーモンドアイの前に5頭いたのだが、みな壁を超えることはできなかった。
ルドルフの前に(芝)GI級レースの最多勝記録を保持していたのは、1964年に戦後初のクラシック三冠馬となったシンザンだった。三冠と天皇賞・秋、有馬記念と八大競走を5勝しているシンザンは「五冠馬」と表現される。が、宝塚記念も勝っているので、GI級レースは6勝ということになる。
シンザンを超えろ――。これが1960年代後半から長らく日本の競馬界のスローガンになっていた。ルドルフが登場したことで、ようやくその目標が達成された。
シンザンはクラシック三冠馬としては史上2頭目であった(1943年にクリフジが、ダービー、オークス、菊花賞の「変則三冠」を制しているが)。
初代三冠馬は、1941年に達成したセントライト。その年は、太平洋戦争が開戦した年として知られているが、月刊「優駿」が創刊された年でもあった。
ここまで読んで、ある法則にお気づきの方もいると思う。
セントライトが初代三冠馬になったのが1941年。シンザンが戦後初の三冠馬になったのが1964年。ルドルフが無敗の三冠馬になったのが1984年(前年にミスターシービーも三冠馬になっている)。ディープインパクトが史上2頭目の無敗の三冠馬となったのが2005年。そう、ほぼ20年置きに、歴史的名馬、それも超ド級のスーパーホースが登場しているのだ(もちろん、1994年の三冠馬ナリタブライアンも、2011年の三冠馬オルフェーヴルもとてつもなく強いスーパーホースだったが、GI勝利数がテーマの今回は、ちょっとお休みということでご了承いただきたい)。
単純に20年周期とすると、ディープの次は2025年。再来年誕生する世代から現れる、ということになる。あるいは、今回は、時代の流れのスピード化とともに登場のペースも速まり、アーモンドアイか、コントレイル、デアリングタクトがそれ、ということになるのだろうか。
さて――。
先週の金曜日、贔屓のスマイルジャックが無事に北海道の繋養先に到着した。出迎えた小桧山悟調教師によると、ピッカピカの馬体でサンシャインパドックに入ったのに、すぐゴロリと寝転がって泥遊びをし、ドロドロになって喜んでいたという。そのあとまた馬体を洗ってもらい、放牧地に入った。爪が傷むこともあるので、しばらくは蹄鉄を履いたまま放牧されるようだ。
「スマイルはいろいろ頑張ったよなあ。あとやってないのは、馬車馬と農耕馬の仕事ぐらいか」と小桧山師。
私も先週、競馬ミステリーシリーズ第4弾『ノン・サラブレッド』の初校を戻し、少し心身が楽になった。以前、ここに、その本の解説を大学の先輩でもあるKさんにお願いしたい、と書いた。断られたら困ると思ってイニシャルにしたのだが、引き受けてくださった。その解説がまた素晴らしい。執筆者のKさんとは、柏木集保さんである。読んで感動してしまった。
私的なことだが、大学病院の警備員をしている弟の妻から、弟がその警備隊の副隊長に昇進したという報せが届いた。
頑張っていれば、ときにはいいこともあるものだ。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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