ステップ3と競馬カメラマンの試み

2020年06月25日(木) 12:00

 来月、7月10日、政府による自粛要請が緩和されて「ステップ3」となり、イベントにおいて、最大5000人か、収容人員の50パーセントの少ないほうを上限とした観客動員が認められるようになる。

 先週開幕したプロ野球が、それに合わせ、7月10日から観客を入れて開催する方針だという。Jリーグも同様に制限付きで観客を入れるようだ。

 また、JRAも、具体的な時期は未定とのことだが、「ステップ3」への移行を踏まえ、制限付きで、観客を入れた開催の再開を検討しているという。

 それはとても嬉しいことだ。

 しかし、この「ステップ3」というのがややこしい。

 東京都では、今月11日に「東京アラート」が解除され、翌12日から休業要請が緩和されて「ステップ3」に移行した。それにより、パチンコ店や遊園地、接待を伴わないバーなどが大手を振って営業できるようになった。

 そう、東京では2週間前に「ステップ3」に入っていたのだ。それも先週の金曜日(19日)に休業要請が全面解除されたことで終了し、今は「ステップ」という表現が使われない生活に戻っている。

 なのに、政府による自粛要請では、今私たちは「ステップ2」の段階にいる、ということになっている。政府が定めたその「ステップ2」が始まったのは、東京都の「ステップ3」が終わった19日だった。

 ちゃんとニュースを見ていなかった私が悪いのだが、今も自分が「ステップ2」の状況下にいるということを、この原稿を書きはじめるまで知らなかった。プロ野球とJリーグが観客を入れることを先に知り、そのあと、政府によって「ステップ」が設定されていることを知ったのだった。

 コロナでステイホームの日々が当たり前になると、朝から晩までテレビのニュースを見ることもある。ニュースの見出しも内容も、街頭インタビューに応えている人までもずっと同じなので、どうしても、軽く受け流すような見方になってしまう。

 それでも、いわゆる調査報道や、独自取材による特集にはなかなか面白いものもある。

 先週の木曜日、6月18日にオンエアされた、NHK京都放送局の夕方のニュース「京いちにち」の特集「競馬カメラマンが撮影 コロナ禍の子どもたち」も、とてもよかった。

 主役は「優駿」、「web Furlong」などの媒体で撮影している桂伸也カメラマン。拙著『冷めて、静かに、熱くなれ』、『誰も書かなかった武豊 決断』文庫判のカバー写真も桂さんの作品だ。

 コロナ禍のため競馬場での撮影が制限され、カメラを構える機会が減った桂さんは、思い立って、先月から、地元の子どもたちを撮影するようになった。学校が再開される前だった子どもたちに、今の気持ちや、やってみたいことなどを紙に書いて持ってもらい、それを望遠レンズで「ソーシャルディスタンス」を保って撮影する。その写真を自身のフェイスブックで発表したのだ。それがとても素晴らしい。子どもたちの表情や、紙に書いた思いが、何とも言えず可愛らしく、見ていると自然に頬が緩む。

 そんな桂さんの試みが、NHKで取り上げられたのだ。京都地区限定でオンエアされたあと、本稿がアップされる6月25日の朝の「おはよう日本」で全国放送されることになった。京都放送局でオンエアされた映像は、「京いちにち」のサイトにアップされている。

 コロナによって、活動が制限されたからこそ編み出された、勇気づけられる試みだ。

 先週あたりから、地方競馬ではフリーのカメラマンも入場できるようになっており、桂さんも撮影を再開している。

 桂さんは、もともと競馬以外の写真も多く撮っているカメラマンだが、これからも、馬と子どもの素敵な写真を楽しみにしたい。

 今週、4カ月ぶりに介護帰省する。最初の仕事は実家のクルマのスタッドレスタイヤを夏タイヤに換えることだ。

 いつもなら実家に2週間ほど滞在するのだが、今回は、長居するのはちょっと怖いので、土曜日に帰京する。

 今はまだステップ……いくつだっけ、2か。繰り返しになるが、7月10日から「ステップ3」。で、これもさっき知ったのだが、8月1日から「ステップ4」になるという。まだまだ「平時」は遠い。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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