園田初!女性騎手誕生!?弟子を預かる3人の師匠の思い

2020年08月18日(火) 18:02

馬ニアックな世界

▲トップ女性騎手の名古屋の宮下瞳騎手(写真左)と、実習中の佐々木世麗さん(写真右)

園田・姫路競馬に初めて女性騎手が誕生するかもしれません。

来春、地方競馬でデビュー予定の騎手候補生たちが7月から競馬場での実習をスタートしています。そのうちの1名、佐々木世麗さんはこのままデビューすれば園田・姫路競馬で初めての女性騎手となる予定です。さらに同期2名も園田・姫路競馬で実習中で、来春は一気に3名の新人騎手がデビューする可能性も。

彼らが所属する厩舎はいずれも重賞制覇歴のあるトップ厩舎。ダートグレード制覇や、年度代表馬も管理した調教師たちはなぜいま弟子を取ろうと思ったのでしょうか。「運命共同体」との言葉も聞かれた調教師たちの思いと「ちょっと馬ニアックな世界」に迫ります。

佐々木世麗(ささき せれい)さん・新子雅司厩舎

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▲兵庫のトップトレーナー新子調教師のもとで修業を積む佐々木世麗さん

 7〜8年前までは検量室前に女性が立っているだけで目立った園田競馬場。過去、女性騎手招待レースが行われたことはあったものの、女性騎手がこの地の所属になることはありませんでした。

 ところが、風向きが変わり始めたのは昨秋。元来、受け入れを拒んできたわけではなかった園田・姫路競馬ですが、所属希望の女性騎手がいれば受け入れたい旨や、それに伴いトイレ等必要な施設の整備を組合に要望する声が調教師会など内部から挙がったのです。

 佐々木さんが園田・姫路に所属希望を出し、そこに手を挙げたのが新子調教師。ダートグレード3勝を挙げ、幾度となく兵庫リーディングに輝くトップ厩舎が初めて新人騎手を受け入れることにしたのです。

「うちには所属で笹田(知宏)がいますが、デビュー後に所属になりました。今回はデビューからの所属。いろいろと育てていかないといけないし、責任も感じます」と、新子師は話します。

 現在、佐々木さんは深夜1時半頃から朝8時半頃まで、1日10頭前後の調教に乗っています。

「他の厩舎の馬にも乗せていただいています。厩舎によって馬のつくり方が違うから、いろんなタイプの馬に乗って学ぶことが大切だと思います」

 田中範雄厩舎、飯田良弘厩舎、森澤友貴厩舎、木村健厩舎、田中一巧厩舎など、いずれも実力派厩舎の馬に跨り、午後になるとトレーニングに通ったり、休日には西脇トレセンまで調教に乗りに行くことも。

「以前、園田で厩務員をしていた方が接骨院とジムをしていて、馬乗りに必要な筋肉なども分かっているのでお任せしています。私一人で教えることにも限界がありますし、いろんな人から教わったほうがいいでしょうしね。

 私が騎手デビューした時はただただ必死に乗っていただけで、細かいフォームまで気にしていませんでした。そういう騎手が多くて、鍛えるにしても無駄な筋肉をつけてしまうこともあります。そういうことを見てきたので、私がやれることをやろうと思っています。

 本人はしんどいかもしれないですけど、のちのち生きてくるよって思うんです。本人にも言ったんですが、『ジョッキーになるのは簡単。こっちは一流のジョッキーにしたい』って」

 新子家には息子さんが2人いるのですが、ちょうど同年代にあたるのが佐々木さん。新子ご夫妻は「うちに娘ができました」と喜び、偶然にも佐々木さんが実習のため園田にやって来た日はご夫妻の結婚記念日でした。

 数々の記録をつくってきた新子厩舎がどんな弟子を育てるのか楽しみです。

長尾翼玖(ながお たすく)くん・橋本忠明厩舎

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▲競馬場にて実習中の長尾翼玖くん

 エイシンニシパやジンギなど、重賞で活躍する馬を多数擁する橋本忠明厩舎。

「開業時は必死でしたが、厩舎も落ち着いてきて2年くらい前から『いずれはジョッキーを育てたい』と思うようになりました。彼も僕も、これで人生が変わるので、責任は重いです」

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▲長尾くんの師匠の橋本忠明調教師

 騎手は所属厩舎によって人間関係や騎乗馬などが変化しますし、預かる方も調教師人生をかけて1人の人間を預かります。

「最初に言ったのは『一緒に戦っていこうな』ってことです。師弟っていうより、運命共同体だと思っています。親御さんには『スーパースターにします』ってお伝えしました」

 少し照れ気味にそう話した橋本師。

 調教師補佐時代、父の橋本忠男厩舎(引退)に所属していたのが現在、園田・姫路リーディングに立つ吉村智洋騎手でした。

「地方競馬教養センターを卒業して、大きなカバンを持って『吉村智洋です。よろしくお願いします!』って来た時、僕もその場にいたんですよね」懐かしそうに振り返りました。

 忠男調教師の厳しい指導の下、16年かけてトップまで上り詰めた吉村騎手。長尾くんにもそんなビジョンを描いているのかな?と思いきや、少し違うようです。

「今までの候補生は、厳しいところを乗り越えてプロになっていましたが、僕は思ったことを言える親子みたいな関係の方がいいかなって考えています。まだ今は学生って感じですけど、プロになったら苦しむことも増えるので、今の間に『馬乗りって楽しい!』って感じてもらうのが僕の仕事だと思っています。

(田中)学さんの真似をしたり聞くように、と伝えています。それに対して、学さんもすごく指導してくれています。技術や馬乗りを学ぶのは当たり前なので、これからリーディングを獲るためには人としてどうあるべきかっていうことも大切になると思っています」

 ひと昔前と育て方は違っても、一緒にトップを目指す気持ちに変わりはありません。

大山龍太郎(おおやま りゅうたろう)くん・坂本和也厩舎

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▲坂本調教師のもと実習中の大山龍太郎くん(提供:坂本和也調教師)

 騎手時代は「逃げの坂本」の異名を持った坂本師。父もかつてこの地で騎手として活躍した坂本師は、兵庫ダービーをユメノアトサキで制覇するなどしたのち、2015年に厩舎を開業しました。

「僕らは園田で育ちました。最近は乗り役が少なくて、騎手が増えたらなぁって思いと、一流のホースマンとして育てたいと思っていました」

 そういった気持ちから大山くんを迎え入れた坂本師。自身も元騎手だからこそ分かる課題などもあることでしょう。

「レースでは本命馬と力量差のある馬に乗ることもあります。そんな時、コース取りややり方一つでいかに自分が優位に立てられるかが重要です。そのためには技術と、自分の心を自由に動かせることが必要。基礎メンタルがレースにつながると思うんです」

 とあるJRA騎手も「ゴルフのようにメンタルスポーツ」と話すように精神状態が結果にも影響を及ぼす世界。

「技術は慣れてくるでしょうからね」と坂本師はメンタル強化に重きを置いています。

「彼自身は自分で考えてトレーニングをしたり、自炊して野菜やタンパク質を摂っています。ご飯に連れて行っても『こういう栄養素を摂りたいです』と言っていて、いろいろと考えていることが伝わってきます」

 佐々木さん、長尾くん、大山くん――それぞれの師匠たちは自身の経験を元に一流の騎手に育てたいと熱い思いを抱いています。

 彼ら・彼女たちがその思いに応えて、来年の春、プロデビューを果たせることを心待ちにしたいですね。

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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