コロナ禍で地方競馬が得たもの

2020年10月06日(火) 18:00

地方競馬の“伝え方”も変化してきた

 10月3日(土)から佐賀競馬でもナイター開催『ほとめきナイター』が始まった。現在開催が行われている地方競馬では8場目。これで2022年に移転する名古屋の新競馬場でナイターがはじまると、ナイター開催がないのは、盛岡、水沢、浦和、金沢、笠松、姫路ということになる。盛岡競馬場はすでに薄暮開催が真っ暗な中でも行われているだけに、施設的にはいつでも始めることができそうだが。

 週末のナイター開催で、JRA-PATで馬券が発売されるのは、通常であれば土曜日は17時11分以前、日曜日は18時11分以前に発走するレースまで(SPAT4、OddsPark、楽天競馬は当然最終レースまで発売される)。ところが10月4日はJRAで凱旋門賞の発売があったため、この日に限っては佐賀のナイターも高知のナイターもJRA-PATで最終レースまで発売が行われた。ナイター開幕週の佐賀にとっては、ちょっとしたご祝儀的な発売延長となった。

 佐賀で9月の日曜日に開催があった日の売上げは、20日が約2億8千万円(大井でナイター開催があったため食われたと思われる)、27日が約4億8千万円だったのが、10月4日は5億2千万円弱と売上げを伸ばした。ちなみに同日の高知は約6億2千万円だから、やっぱり高知はすごい。

 コロナ禍でも地方競馬の売上げがアップしていることはさまざまに報道されているが、4〜8月の前年同期比では、総売得額で131.5%、1日平均で133.4%となっている。月ごとの1日平均での前年同月比では、4月が119.7%、5月が127.6%、6月が133.8%と月を追うごとに上昇し、7月には154.7%となった。さすがに8月は130.2%に落ち着いたが、それでもその伸び率はすごい。

 2019年度の地方競馬の総売得額は約7010億円で、1997年度以来22年ぶりの7000億超えとなった。仮に今年4〜8月の総売得額の前年比131.5%のまま1年間推移したとすると、今年度の総売得額は約9200億円となり、地方競馬の売上げが最高を記録した1991年度の9862億円余りに迫ることになる。

 年間の総売得額が3000億円余りにまで落ち込んでいたのは、わずか10年ほど前のこと。その当時、再び9000億円の時代が来るとは想像もつかなかった。

 コロナ禍ではさまざまに生活様式が変わったが、テレビなどでは、もはやリモートでの出演も当たり前の光景だ。

 IT技術が進歩し、ネットの通信速度が速くなった今だからこそ実現できたことだが、地方競馬の“伝え方”もコロナ禍をきっかけに急速に変化しているのを感じる。

 以前であれば、中継の番組をつくろうと思えば、スタジオやそれに準ずる場所や機材が必要だった。しかしコロナをきっかけに、個人ユースのパソコンやタブレットやスマホで、zoomなどのアプリを使ってのリモート会議のようなことが急速に普及。それをYouTubeなどで番組として配信することが可能になった。

 8月からは高知競馬で、そしてナイター開催が始まったタイミングで佐賀競馬でも、さらに間もなくばんえい競馬でも、本来のレース映像配信とは別に、いわば“裏チャンネル”的な番組配信がYouTubeで始まっている。

 地方競馬には、またあらたにレース映像や情報を伝える手段が増えたといってもいい。

 思えば2000年頃まで、ネットが今ほど普及しておらず紙媒体が主流だった時代、地方競馬は各地方ごとに行われているもので、伝えられる情報はかなり限られていた。パソコンを日常的に使っている人であれば、ある程度はネットで情報を得られたが、ほとんどの人がスマホを自由に操作できるようになった今とは比べるべくもない。

 2010年頃だったか、当netkeiba.comの編集部から『競馬甲子園(仮称)』という企画の相談を受けたときは、ちょっと驚いた。全国の地方競馬を網羅して満遍なく情報を提供しようという企画だ。

 今となっては当たり前に過ぎる企画だが、南関東も北海道も、高知も佐賀も、当時まだあった福山や荒尾も、同じようなレベルで情報を伝えようというもの。

 全国の地方競馬の情報に気軽にアクセスできるようになったのは、その頃から。わずか10年ほど前のことだ。

 それより少し前、OddsParkや楽天競馬ができて、ひとつの窓口(正確にはネット上のサイトだが)で全国の馬券が買えるようになったこともひとつのきっかけだった。そうした環境がととのったからこそ、『競馬甲子園(仮称)』という企画が立ち上がったと思われる。

 話はやや逸れるが、OddsPark、楽天競馬以前は、地方競馬の電話投票は、SPAT4こそ南関東4場共通だったが、それ以外は主催者ごとに銀行口座(しかも競馬場がある地元の地方銀行)を開設して、それぞれ別々に会員になる必要があった。ちなみに当時ぼくは、JRA、SPAT4のほか、ばんえい、北海道、岩手、高崎、笠松、高知の会員になっていた。

 もともと地方競馬は、中央競馬と比べるとニッチでマニアックなもの。であればこそ、限られたファンに伝える媒体として、ネットと地方競馬は親和性が高かったといえるだろう。

 コロナによる外出自粛や密を避けるための対策として始まった、ネットによる新たな地方競馬のライヴ配信は、コロナがなくなっても地方競馬を伝える新たなジャンルとして盛り上がっていくものと思われる。それによって地方競馬のファン層やファンの関わり方、さらには競馬そのものも変わっていく可能性がある。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

関連情報

新着コラム

コラムを探す