“遅れてきた大物”の登場により香港競馬に起きた世代交代

2020年12月16日(水) 12:00

世界と肩を並べたトップマイラーがターフに別れ

 13日(日曜日)にシャティン競馬場で行われた香港国際競走は、関係者に対する厳しい渡航制限が敷かれた中、アイルランド、フランス、日本の3か国から12頭が参戦。なおかつ、施行された4競走のうち3競走において、国外からの遠征馬が優勝を果たすという結果に終わった。

 だが、大会のハイライトは、現地のオッズで1.3倍という圧倒的支持に応えて、香港調教馬のゴールデンシックスティ(セン5)が快勝した、G1香港マイル(芝1600m)だったことは、ほぼ衆目の一致するところであろう。上がり2F=22秒05という強烈な末脚を繰り出して2馬身差で勝利を収め、通算成績を15戦14勝としたゴールデンシックスティは、間違いなく今後の香港競馬を牽引するスーパーホースであり、世相が許すのであれば、海外雄飛の期待がかかる大物である。

 一方、その香港マイルのレース後、次代を託すに足る後継馬にバトンを渡すがごとく、現役引退を表明したのが、このレースで5着に敗れたビューティージェネレーション(セン8)だった。

世界の競馬

次世代へのバトンを渡すがごとく引退を決めたビューティージェネレーション(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和

 現役時代は未出走に終わった母スタイリッシュベル(その父ベルエスプリ)の3番仔として、ニュージーランドで生まれたのがビューティージェネレーションだ。父ロードトゥロック(その父エンコスタデラーゴ)は、ランドウィックのG1クイーンエリザベスS(芝2000m)や、同じくランドウィックのG1ジョージメインS(芝1600m)を制した馬である。

 14年1月にニュージーランド・ブラッドストック社が主催するカラカ・セレクト1歳セールに上場され、6万NZドル(当時のレートで約516万円)でハーメス・シンジケーションズに購買されると、2016年1月にオーストラリアのアンソニー・カミングス厩舎からデビュー。当時の競走名は、モンテーニュだった。3歳シーズン終了時までに7戦し、2勝を挙げた他、G1ローズヒルギニーズ(芝2000m)2着、G1ザBMW(芝2400m)4着などの成績を残したモンテーニュは、4歳シーズンから香港に転身。ジョン・ムーア厩舎に所属し、競走名がビューティージェネレーションに改まった同馬が、当面の目標としたのが香港4歳シリーズだった。3競走を皆勤したビューティージェネレーションは、香港クラシックマイル(芝1600m)3着、香港クラシックカップ(芝1800m)11着、香港ダービー(芝2000m)3着という成績に終わっている。

 実は、この年の香港4歳クラシックを完全制覇したのがラッパードラゴンで、当時のビューティージェネレーションは、天才アスリートと称されたラッパードラゴンに歯が立たなかったのだった。オーストラリア時代の戦績に加え、香港ダービーでも好走したことから、陣営が適距離は2000m以上と判断したのも無理からぬところで、4歳シリーズが終わるとビューティージェネレーションは芝2200mのハンデ戦(クラス2)に出走し、ここを快勝。同馬にとって香港重賞初挑戦となったのが、次走のG3クイーンマザーメモリアルC(芝2400m)だったが、ここは8着と大敗している。

 マイル路線に軸足を移したのは5歳時からで、これが見事に図に当たり、ビューティージェネレーションは一気にスターダムを駆け上がることになった。このシーズンは8戦し、G1香港マイル(芝1600m)、G1クイーンズシルヴァージュビリーC(芝1400m)、G1チャンピオンズマイル(芝1600m)という3つのG1を含む5勝をマーク。香港年度代表馬の座に輝いている。

 その強さにさらに磨きがかかったのが6歳時で、このシーズンは8戦8勝という破竹の快進撃を見せた。2018年のG1香港マイルで、2着ヴィブロスに3馬身差をつけて優勝したパフォーマンスで、レーティング127を獲得。これは、2014年の香港マイルを制した際にエイブルフレンドが獲得した数字と並ぶ、香港調教馬としての歴代トップタイで、2018年の世界ランキングでは4位タイ、芝マイルのカテゴリーではオーストラリアの歴史的名牝ウインクスと横並びの世界首位という高評価だった。

世界の競馬

他馬を寄せ付けない圧倒的な強さで快勝した18年香港マイル(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和

 6歳シーズンも、2年連続で香港年度代表馬に選出されたことは言うまでもない。7歳シーズンの初戦となった、2019年10月のG3セレブレーションC(芝1400m)を制し、2018年4月から継続していた連勝を10に伸ばしたところまでが、ビューティージェネレーションの全盛期で、続くG2シャティントロフィー(芝1600m)で3着に敗れて連勝がストップ。この年のG1香港マイルも3着に敗退した。セレブレーションCで獲得したレーティング127によって、2019年の世界ランキングでも前年に続いて4位に入り、マイル部門では単独で世界首位の座に就いている。7歳シーズンの後半に入ると巻き返しを見せ、G1クイーンズシルヴァージュビリーC、G2チェアマンズトロフィー(芝1600m)を連勝したのは、さすがの底力だった。また、チェアマンズトロフィーを勝った段階で、香港における通算勝利数が18となり、スーパーウイン、サイレントウィットネスが持つ香港最多勝記録に肩を並べている。

 19/20年シーズンをもって、ジョン・ムーア調教師が引退。デヴィッド・ヘイズ厩舎に移籍して20/21年シーズンも現役に留まったのは、通算勝利数の新記録を樹立することが目的だったが、残念ながら果たすことは出来なかった。

 通算成績34戦18勝、香港調教馬として歴代最多となる1億623万3750香港ドルの賞金を収得したビューティージェネレーションは今後、オーストラリアのヴィクトリア州にあるリヴィングレジェンドで、余生を過ごす予定だ。

世界の競馬

今後はオーストラリアで余生を過ごす予定だ(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

関連情報

新着コラム

コラムを探す