ばんえい愛馬1号が重賞2着!はじまりは当コラムと串カツ屋

2021年02月09日(火) 18:00

 2年半ほど前、JRAのある馬主から突然LINEが届きました。「大恵さんのnetkeibaコラムとグリーンチャンネルの番組を見て、ばんえい競馬に興味が湧きました。ばん馬を買ってみようかな」。

 この一通のLINEから加速度的に話は進み、山口正行オーナーは重賞馬・ミスタカシマの甥っ子の共有馬主となり、ばんえいライフをスタートさせました。デビュー前から何回か北海道に足を運び、愛馬1号のマサタカラは先月31日に行われた翔雲賞で重賞初挑戦ながら惜しい2着と健闘。

 昨年12月29日には1日売上げレコード更新など盛り上がりを見せるばんえい競馬にまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

ばんえいの馬主資格って?

 先月31日に行われたばんえい競馬の3歳牡馬による重賞・翔雲賞。今年新設された重賞を勝ったのはメンバー中、最も体が大きなタカナミでした。3歳にして1054kgという馬体重は、普段サラブレッドの競馬を中心に見ていると、とてつもない数字に感じてしまいます。

 ソリの一番後ろの部分の通過をもってゴールとされるばんえい。タカナミのソリがゴール線上のとても際どいところで止まっていたところ、走って(!)グングンと迫ってきたのはマサタカラでした。素人目には分からなかったのですが、際どいと感じたこの攻防もタカナミはすでにゴールを果たしていたようで、追い上げたかに思えたマサタカラは2着。それでも、「馬の一発逆転ライブショー」と銘打つばんえいとあって、最後までハラハラドキドキする展開でした。

 この展開に大興奮したのは2着マサタカラの代表馬主である山口正行オーナー。JRAの馬主で、地方競馬でも2017年兵庫ダービーを制覇したブレイヴコールの共有馬主でもいらっしゃいます。

 サラブレッド専門で競馬を楽しんでこられた山口オーナーがばんえいに興味を持たれたきっかけはグリーンチャンネルの番組と当コラムだったと言います。

 2018年9月、女性騎手たちについて行った帯広競馬場で、ばんえいで使われるソリに乗せていただいた体験記を書きました。

『ばん馬ソリに乗ってみた!』女性騎手たちの前で大恵陽子が体当たり企画

 私自身も帯広競馬場には5回ほどしか行ったことがなく、超のつく初心者。普段はほとんど触れることのないばん馬は新鮮で、とにかく楽しかったなぁという思い出を記したコラムが、まさかこのような形になるとは恐縮するばかりです。ありがとうございます。

 しかし、ここでふとした疑問が一つ浮かびます。

「ばんえいの馬主って、サラブレッドの地方馬主と同じ資格でいけるの?」

 同じ地方競馬と言えど、品種もレース形態もまったく異なるばんえい競馬。疑問に思い、帯広在住の競馬ライター・小久保友香さん(ご主人はカメラマンの巌義さん)に聞いたところ「同じ馬主資格でいけますよ」とのこと。

 さらにその直後、小久保さんが関西にいらっしゃるということで、山口オーナーと3人でのばんえい勉強会が串カツ屋さんで開かれました。

「ばん馬のセリ市って開かれているんですか?」

「ばん馬の品種は、ブルトン、ペルシュロン、ベルジャンの3種と記事で読んだのですが、早くから活躍する馬を持ちたければどの品種がいいんですか?」

 などなど。

 セリ市については開催はあるものの、サラブレッドのように競走馬専用市場というわけでなく、いろんな業者が参加してのもののため、庭先取引が主流とのこと。

 また、血統についてはサラブレッドほど重視されておらず、どちらかと言えば血統よりもその馬自身が評価される傾向にあるようです。このあたりは、ばん馬の生産が道内でも津軽海峡に近い道南地域からオホーツク海を望む道東までとても広範囲にわたるため、種牡馬の選択肢がある程度限られることも関係しているようです。

 さらに、サラブレッドでは繁殖牝馬が種牡馬の元を訪れて種付けし、終了後は一夜をともにすることなく、すぐに自身が過ごす牧場に帰りますが、ばん馬の場合は種牡馬が繁殖牝馬の元へ出向くのが主流だそう。ただし、人気種牡馬になると繁殖牝馬たちが遠方からでも「嫁入り」して、しばらく過ごすこともあるのだとか。種付けからしてサラブレッドと違うので、とても興味深いです。

目標は3月20日イレネー記念

 素朴な疑問からコアなことまでたくさん教えていただいた串カツ屋勉強会を経て、山口オーナーは以前から繋がりのあった生産者の本寺政則さんの牧場を訪れます。

 そこで出会ったのが、重賞6勝を挙げるミスタカシマの甥っ子。ばん馬をこれまで所有したことがありませんでしたが、本寺さんは温かく受け入れてくださり、ばん馬やばんえい競馬についていろいろと教えてくださったといいます。そして、とても可愛らしい男の子に惚れた山口オーナーは、共同で所有することを決められました。

 幼名を「政宝」と名付けられていたことから、競走馬名も同じく「マサタカラ」と決められた男の子はすくすく成長。ばんえいカレンダーのモデルにもなり、大阪に住む山口オーナーの元には本寺さんから成長の様子が送られてきたようです。

馬ニアックな世界

▲本寺さんから送られてきた1歳の11月頃のマサタカラ(左)の様子(提供:山口正行オーナー)

 ぷりっとしたお尻のマサタカラを見て山口オーナーは「これは走る!いや、歩くかな?」と期待を高めました。

 そうして昨年4月12日、マサタカラは能力検査を迎えました。

 厩舎は本寺さんのご紹介で、勢いのある金田勇厩舎(2020年は勝利数トップタイ)に決まりました。

馬ニアックな世界

▲意気揚々と能検に向かうマサタカラ(提供:小久保友香さん)

馬ニアックな世界

▲4番のゼッケンをつけたのがマサタカラ。鞍上は昨年リーディングの鈴木恵介騎手(提供:小久保友香さん)

 無事に能検は合格。

 2020年5月にデビュー戦を迎えると、第二障害を4番目に越えます。そして、480kgのソリを引いているとは思えぬ軽快な脚どりで勝ち馬との差を詰めて3着に入りました。

 初勝利が訪れたのは6戦目の7月。砂埃が舞いパワーを要する馬場状態の中、このレースでも第二障害を越えてからグングンと脚を伸ばして勝利を手にしました。

 この3日後に北海道入りする予定だったという山口オーナーの現地観戦は叶いませんでしたが、ばんえいでの嬉しい初勝利。

 続く7戦目当日は盛岡のせきれい賞で所有するアップクォークが重賞初制覇を飾り、5分後にレースを迎えたマサタカラは3着。「覚醒しはじめました」と山口オーナーは喜びました。

 関西と帯広を結ぶ飛行機の定期便はなく、頻繁に会いに行けないながらも2歳の間に3勝を挙げたマサタカラは、冒頭の重賞・翔雲賞への出走を叶えたのでした。

馬ニアックな世界

▲昨年12月19日に3勝目を挙げたマサタカラ(提供:小久保友香さん)

 すでに記したように惜しいレースではありましたが、重賞レースでも決め手を生かして2着に入ったように、夢が広がります。

馬ニアックな世界

▲重賞初出走の翔雲賞で惜しい2着だったマサタカラ(提供:小久保友香さん)

「勝ち馬がゴール直前で止まったように見えましたが、こぶし一つ二つ入っていたようですね。3月20日のイレネー記念に出走ができたら、勝ちたいです!」(山口オーナー)

 ひょんなことがきっかけでばんえいの扉を叩いた山口オーナー。そこには夢と希望が詰まった世界が広がっていました。

 これからもマサタカラの活躍を期待しています。

馬ニアックな世界

▲仔馬時代は可愛らしい表情を見せていたマサタカラも少しずつ成長しています。次の目標はイレネー記念(提供:小久保友香さん)

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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