持続化給付金の受給資格

2021年02月25日(木) 12:00

 周知のように、JRAの調教助手と厩務員が持続化給付金を不正受給した疑いがあると報じられている。もちろん一部の人間ではあるが、百名ほどとの報道もあり、個人の過失では済まされない状況になっている。

 問題は、コロナ禍による影響があったかどうか以前に、この持続化給付金は「個人事業者」が対象である、ということではないか。

 そもそも、調教助手や厩務員は「個人事業者」ではないはずだ。進上金を事業所得として確定申告しているとしても、調教師に雇用されている被雇用者である。

 それなのに、今回、給付金がすんなり支払われたのは、進上金が事業所得として認められ、それが前年同月比で50%以上減った月があり、証拠書類などに虚偽がなかったからだろう。

 問題になってくるのは「個人事業者」の定義だ。一般には「個人事業主」という言葉を使うことが多いが、持続化給付金の申請手続に関する注意書きでは「個人事業者」に統一されている。そして、給付対象に関しては「フリーランスを含む個人事業者が広く対象となります」と記されている。

 調教師やフリーの騎手が「個人事業者」であることは間違いない。

 この持続化給付金は、月ごとの収入に変動のある高額所得者が条件に当てはまりやすいので、多くの調教師や騎手が受給資格を満たしていると思われる。が、今のところ、申請した人はいないようだ。

 例えば、2019年4月の月収が300万円で、同年の年収が5000万円だったとする。で、2020年4月の月収が前年同月の半分以下である100万円だとすると、2019年の年収(5000万円)から(100万円×12)を引いた額が3800万円となり、それは100万円以上なので、満額の100万円が支給される。

 中小企業庁の「持続化給付金申請規程 個人事業者等向け」には「個人事業者等」という記述もあるが、これは「フリーランスを含む個人事業者」をまとめたものだ。が、「等」とされているがゆえに、調教助手や厩務員のように、事業所得を得ている被雇用者も含まれるという解釈も成立するのかもしれない。

「個人事業者」「個人事業主」の定義をあらためて調べてみると、かなりあやふやというか、線引きが難しい。特に今回の場合、確定申告をしたことのないフリーターや学生アルバイトでも、遡って白色申告し、収入減の要件さえ満たしていれば、受給資格を得ることはできる。学生の場合、「今後も事業継続する意思があること」に引っ掛かりそうだが、「ぼくは卒業後もこのバイトで食べていきます」と言えば、当てはまってしまう。「今後」というのが何年なのかも、特に定められているわけではない。といった具合なので、お役所が「事業所得を得ている者」として、調教助手や厩務員もまとめてくくったとして不思議ではない。

 となると、やはり、給付対象者の要件とされている「2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により」という部分に当てはまるかどうかがポイントになる(これも「等」となっているところが気になるが)。

 コロナの影響を受けていない人などいないだろうから、中央競馬がスケジュールどおりに開催されたとはいえ、理由はどうとでも付けられそうだ。が、2020年のJRAの売上げは前年をわずかながらも上回っている。無観客での開催が多かったので、競馬場内や近隣の飲食店など関連業者が受けた打撃は大きかっただろうが、競馬そのものを巡るカネは、コロナの影響をほとんど受けなかったと言っていい。そうした状況下で、困窮しているわけでもないのに給付金を受け取った厩舎関係者は、「不給付要件」の「給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する者」とされてしまう可能性もないとは言えない。

 世間一般の感覚からすると、安定した給料をもらっているのに個人事業者のための給付金100万円を受け取り、しかもギャンブルの関係者である――となると、非常にイメージが悪い。イメージというのは揺らぎやすいし、ほかの事象と作用し合うものなので、「公正競馬」「競馬の信頼性」といった部分のイメージへの影響も避けられないだろう。

 今回は、手続きを指南したとされる大阪の税理士が有名馬主だと言われていることも、耳目を集める要因になっている。

 この件がメディアでしばしば取り上げられるようになったのは、2月16日の報道がきっかけだった。翌2月17日の衆議院予算委員会でも取り上げられ、野上浩太郎農林水産大臣は「JRAに厳正な対応を取るよう指示した」と述べている。それを受け、JRAは調教師会に厩舎従業員全員を調査するよう通達。その回答期限が今週半ばとなっている。今まさに動いているわけだが、サークル内では昨年のうちから持続化給付金を受け取った人間がいることは知られており、調教師会が問題視して返還するよう11月に指導している。

 今は確定申告の時期でもあるし、JRAは2月で年度が終わるということもあり、なるべく早くケリをつけたいところだろう。

 JRAから、すっきりした発表がなされるのを待ちたい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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