【日本ダービー】「真っすぐ走らせることを選択」3コーナーで福永祐一騎手が確保していた進路

2021年06月01日(火) 18:00

哲三の眼

シャフリヤールが勝利し、福永祐一騎手は3度目のダービー制覇 (撮影:下野雄規)

接戦となった今年の日本ダービーを制したのは4番人気のシャフリヤール! これで福永祐一騎手は3度目のダービー制覇となりました。今回は哲三氏が「1番のファインプレー」と称する3コーナーの走らせ方を中心に振り返りつつ、藤原英昭厩舎の“厩舎力”にも注目します。

(構成=赤見千尋)

馬の視界をしっかり確保したコース取り

 日本ダービーは4番人気だったシャフリヤールが差し切り勝ち。鞍上の(福永)祐一君にとっては3度目のダービー制覇となりましたね。レース後のコメントでは、「決してスムーズな騎乗ではなく、馬の力に助けられた」ということを話していました。確かにそういう面もあったのかもしれませんが、さすがだなと思わせる場面もいくつもありました。コントレイルの時はやりたいことがしっかり出来たのではないかと感じましたし、今回はやりたいことが全部出来たわけじゃない中で勝利して、ダービーの勝ち方を知っているなと。

 5枠10番という枠順も、他の馬たちとの枠の並びも、好勝負に持ち込める好枠だなと思っていましたが、そこを活かすためにはまずしっかりとスタートを決めることです。好スタートを切って、そこからすぐに引っ張って減速するのではなく、流れに乗りながらやや内の方に進入して行きました。1コーナーを回る時には近くに(横山)武史君のエフフォーリアを見ながらという位置を確保出来て、レースを組み立てていきやすかったのではないかと思います。

 僕の中で1番のファインプレーだと感じるのは、3コーナーの走らせ方。向正面もそうなんですが、馬の顔をずっと真っすぐ前に向けているんです。横から見ているとどの馬も真っすぐ走っているように見えるかもしれませんが、レース中は前の馬の内に行ったり外に行ったりしています。特に今回はスローペースになりましたから、そういう選択肢もあった中で、進路を変えずに真っすぐ走らせることを選択しました。

 そこから3コーナーに入って行った時、馬の視界をしっかり確保しているんです。3コーナーを少し回った辺りで内側に少しスペースを確保して、(馬の)左目で先の視野が見えるコース取り。エフフォーリアを左斜め前に置いてという形で、右側にも早めに外に出す進路を確保していました。馬群の隙を見つけて、スペースが取りづらい中でも御しやすいようなスペース作りを考えていたのではないかと。

哲三の眼

「御しやすいようなスペース作りを考えていたのでは」と哲三氏 (撮影:下野雄規)

 一生懸命走っている馬たちにとって、先が見えるのと見えないのとでは違ってくると僕は思っていて、特にスローペースの馬群の中で、前との間隔も大事ですが、横のスペースを確保することも大事にしていました。そこを作れるかどうかで勝負が決まることもあるくらいです。あの場面で馬の視界を確保出来ていたので、流れの中でどうすべきかの判断も感じやすかったのではないかと想像しています。そして、まだ外に行かなくていい、そのままのコースの方がいいという判断だったのではないでしょうか。

 ただ、こういう場面では本来内からすくわれたくないんですよね。だからといって内をギュウギュウに詰めて回るのも馬にとって走りやすいという選択ではないと思いますから、その頃合いを上手く読み取っているなと。ダービーの前のレースで急に大雨が降ったりして、馬場読みも難しかったと思いますし、3コーナーの走らせ方というとても細かい部分で、流れの中で掴みづらいところだと思います。でもそういうところを大事にして、3コーナーで馬自身の走りの土台がしっかりと準備出来た分、直線の伸び脚に繋がったのではないかと感じます。

「藤原英昭厩舎はさすがだなと」

 そして、レースでの(福永)祐一君のファインプレーに繋がっていくのが厩舎力ですね。年々仕上げのレベルも上がっているなと思いますが、その中でも藤原英昭厩舎はさすがだなと。共同通信杯の返し馬で、シャフリヤールはテンションが上がっていましたが、今回はそういうところがなく落ち着いていました。長距離輸送で焦れ込んでしまう馬の場合、そんなにすぐには慣れないものだと考えてきましたが、3歳春のうちにしっかり解消してくるとは…。さすがの厩舎力ですし、馬も賢いなと思いました。

哲三の眼

口取り式でのシャフリヤールの様子 (撮影:下野雄規)

 2着エフフォーリアの(横山)武史君もいいレースをしていましたね。スタートしてからのポジション取りなど、さすがだと感じるところはたくさんありました。着差が着差だけに相当悔しいと思いますが、ぜひこの悔しさを今後に活かして欲しいです。

 僕の話をすると、タップダンスシチーとの最初の有馬記念でもし勝っていたら、その後の僕はなかったのではないかと思っています。シンボリクリスエスに差されて、半馬身差の2着だったわけですが、めちゃくちゃ落ち込みつつ、なぜ負けたのか自分の中で相当探しました。簡単に答えが見つかるわけではないので、考えて努力して、少しずつ積み上げました。

 もちろん勝つことが一番だけれど、悔しい負け方というのも前に進むために必要な要素だと思います。これからも応援したくなるようなレースでしたし、今後すごいジョッキーになってくれるのではないかと期待しています。

 3着は9番人気だったステラヴェローチェでした。鞍上の吉田隼人君にとっては、オークスは残念な結果でしたが、ここで馬券圏内に持ってきて、いいアピールが出来たのではないかと思います。今年も本当にいいダービーを見させてもらいました。

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佐藤哲三

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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