愛国で繁殖入りのディアドラも加わった「豪華な交配リスト」

2021年06月23日(水) 12:00

初年度から超大物も出現したウートンバセット産駒

 いささか旧聞に属するが、ヨーロッパから、ディアドラ(牝7、父ハービンジャー)が初めての子供となるウートンバセット産駒を受胎したというニュースが入ってきた。

 日本を拠点に21戦し、GI秋華賞(芝2000m)など4重賞を含む7勝を挙げた後、ドバイと香港における戦いを経て、5歳の5月から英国ニューマーケットに拠点を移したのがディアドラだ。5歳、6歳の2シーズンにわたった彼女の奮闘ぶりは、競馬ファンの皆様の記憶にも新しいはずだ。

 英国、愛国、仏国、香港、サウジアラビア、バーレーンの6か国で10戦し、グッドウッドのG1ナッソーS(芝9F197y)を制した他、アスコットのG1チャンピオンS(芝10F)3着、レパーズタウンのG1愛チャンピオンS(芝10F)4着などの成績を残し、日本産馬の力量を世界の競馬関係者にアピールする上で、多大な貢献を果たした。

 昨年一杯で引退し、愛国で繁殖入りした同馬の初年度の交配相手には当初、11年連続リーディングサイヤーのガリレオが予定され、実際に2度にわたって交配されたのだが、残念ながら受胎をせず、来春の出産時期がこれ以上遅くなるのを防ぐために、関係者は配合変更を決断。ガリレオと同じクールモアで繋養されているウートンバセットを交配したところ、受胎が確認されたものだ。

 ニューキャッスルのLRホッピングスS(芝10F32y)2着をはじめ、準重賞入着実績が5度ある母バラドニアの5番仔として、2008年春に英国で生まれたのがウートンバセットだ。

 ドンカスター1歳市場にて4万6千ポンド(当時のレートで約725万円)で購買され、ノース・ヨークシャーを拠点とするリチャード・ファーヘイ厩舎の一員となったウートンバセットは、2歳の6月にデビュー。2歳時は5戦して、ロンシャンのG1ジャンルクラガルデル賞(芝1400m)を含む、無敗の5連勝をマーク。仏国における2歳牡馬チャンピオンに選出された。

 ウートンバセットの父イフラージは、2017年の欧州チャンピオンマイラー・リブチェスターらを送り出しているトップサイヤーだ。ウートンバセット以外にも、G1フィリーズマイル(芝8F)やG1BCジュヴェナイルフィリーズターフ(芝8F)を制したクリセリアム、G1モイグレアスタッドSを制したリジーナといった2歳G1勝ち馬を出しており、仕上がりの早さが特性の1つとなっている。

 3歳時は4戦して未勝利に終わったウートンバセットは、4歳となった2012年の春から、仏国のエトレアム牧場で種牡馬として繋養されることになった。

 初年度の種付け料は6千ユーロ(約80万円)で、初年度産駒がデビューした2015年の春は4千ユーロ(約53万円)だったから、率直に言って、絶大なる期待を背負って種牡馬入りしたわけではなかった。

 ところが、初年度産駒からいきなり、G1仏ダービー(芝2100m)、G1愛チャンピオンS(芝10F)、G1チャンピオンS(芝9F212y)を制し、2016年の欧州3歳牡馬チャンピオンとなったアルマンゾルという超大物が出現したのである。

 これにより、2017年のウートンバセットの種付け料は、2万ユーロ(約266万円)に上昇することになった。その後も、3世代目の産駒から、G3フォンテンブロー賞(芝1600m)勝ち馬で、G1ジェベルハッタ(芝1800m)で2着となったウートンが登場。

 4世代目の産駒から、昨年後半にG1BCフィリー&メアターフ(芝9.5F)やG1ジャンロマネ賞(芝2000m)を制したアウダーリャが。5世代の産駒から、昨年秋のG1アベイドロンシャン賞(芝1000m)勝ち馬ウッディドや、今年春のG1ジェニーワイリーS(芝8.5F)2着馬タマヒアが。

 そして、6世代目の産駒となる今年の3歳世代からも、G1サンタラリ賞(2000m)勝ち馬アンカルヴィルが登場。ウートンバセットは、トップサイヤーの仲間入りを果たした。

 続々と登場した活躍馬たちが制しているレースをご覧いただければおわかりと思うが、早熟だった父と違って、ウートンバセットの産駒たちは成長力に富んでいるのが特徴で、距離もマイル以上を得意とする馬を多く送り出している。

 愛国のクールモアが動いたのが昨年の夏で、エトレアム牧場との交渉をまとめてウートンバセットを買収。2021年から同馬の供用地はクールモアに変わり、種付け料も10万ユーロと、最も安かった時の25倍に上昇することになった。

 クールモアの渉外担当役員デヴィッド・オフラフリン氏によれば、ジャドモント、ゴドルフィン、ニアルコス家、カタール・ブラッドストック、ヴェルトハイマー兄弟、チャイナ・ホースクラブ、アルシャカブといった、ヨーロッパのトップブリーダーたちがこぞって牝馬を送り、ウートンバセットを交配しているとのことで、具体的には、ゴールデンホーン、ハリーエンジェル、ワンマスター、アウダーリャといったG1勝ち馬の母が、今年の春はウートンバセットを種付けしている。

 言うまでもなくクールモア自身も、所有する多くの良血牝馬にウートンバセットを交配しており、アレグザンドローヴァ、ブレスレット、クレミー、ファンシーブルー、ファウンド、イモータルヴァース、ムーンストーン、ワズといったG1勝ち馬たちが、既にウートンバセット産駒を受胎したことが確認されている。

 さらに、6月4日に行われたG1英オークス(芝12F6y)をレース史上最大着差の16馬身差で圧勝したスノーフォール(牝3、父ディープインパクト)の母ベストインザワールドもまた、ウートンバセット産駒を受胎中とのことだ。

 その、豪華な交配リストに、ディアドラも加わったわけである。

 順調なら、来年春にはディアドラの初仔が生まれ、2024年には競走年齢である2歳を迎える。果たしてどんなタイプの競走馬に育つのか、3年後が待ちきれない思いだが、願わくは、母同様に、世界の檜舞台で活躍する競走馬に成長することを祈っている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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