現役最高齢馬は18歳

2022年02月03日(木) 12:00

 先日、地方競馬の名古屋に、ヒカルアヤノヒメという18歳の現役競走馬がいることを知った。父メイショウオウドウ、浦河・富菜牧場生産、三原公子氏所有、井上哲厩舎所属の牝馬である。

 直近のレースは今年1月31日、名古屋ダート1400mのC30組。ヒカルアヤノヒメは10頭中8着だった。これで通算成績は301戦14勝となった。

 当然、国内の最高齢出走記録だろうと思ったが、そうではなかった。上には上がいて、ホッカイドウ競馬のクラベストダンサー(牝、2000年生まれ、父クラカゲオー)が、2018年9月25日に門別ダート1000mの3歳以上C4ー7に18歳5カ月11日で出走している。

 前出のヒカルアヤノヒメは、2004年4月10日生まれなので、満年齢で言うと、まだ18歳になっていない。クラベストダンサーの記録を破るとしたら、今年の9月下旬以降ということになる。

 クラベストダンサーは、2018年6月6日に国内最高齢出走記録保持馬として同年初戦を迎えるにあたり、このとき20歳だった新コンビの落合玄太騎手と2歳しか違わないということでも話題になった。

 面白いことに、今回も似たような、というか、さらに上を行く現象が起きている。1月31日にヒカルアヤノヒメに騎乗した塚本征吾騎手は17歳。表記のうえではヒカルアヤノヒメより若いという、超異色のコンビなのだ。「表記のうえでは」としたのはなぜかというと、塚本騎手は2004年2月20日生まれなので、今月20日に18歳になるからだ。そして、4月10日生まれのヒカルアヤノヒメより2カ月弱早く生まれている。実際は、ちょっとだけ、塚本騎手のほうが上なのである。なお、塚本騎手がヒカルアヤノヒメのレースに乗るのは、昨年6月17日以来の2度目であった。

 人馬がほぼ同い年というのもすごいが、種牡馬や繁殖牝馬といった「第2の馬生」を終えていてもおかしくない18歳で今なお現役というのは、とにかく驚きだ。

 通算301戦というのもたまげる。クラベストダンサーは210戦7勝で引退した。

 しかし、301戦でも国内最多出走記録ではない。高知のセニョールベスト(牡、父ロドリゴデトリアーノ)が2014年9月21日に高知ダート1300mのC3ー9に出走して最下位の8着となり、通算成績を409戦33勝とした。33勝というのは立派だし、2着35回、3着31回というのもすごい。

 なお、JRAの最高齢出走記録を保持しているのは、2000年1月29日の銀嶺ステークスで14着となったのを最後に引退したミスタートウジン(牡、父ジュニアス)で、14歳だった。戦績は99戦11勝。3歳時には皐月賞(13着)、5歳時には天皇賞・秋(14着)、13歳時にはフェブラリーステークス(15着)にも出走していた。

 そして、JRAのサラブレッドの最多出走記録は、ハートランドヒリュ(牡、父ランドヒリュウ)の127戦(4勝)で、アラブのそれは、トキノヒカリの128戦(国営時代を含めるとサシカタの159戦)である。

 ハートランドヒリュは、トキノヒカリの記録更新を目指していたが、2006年3月22日の調教中に急性心不全を発症して死亡した。127戦目を走ってからわずか10日後。10歳だった。

 ハートランドヒリュが走った最高のクラスは1000万下、今で言うところの2勝クラスだった。にもかかわらず、同馬は、同い年のテイエムオペラオーのほか、タップダンスシチー、ツルマルボーイ、アサクサデンエン、ヘヴンリーロマンス、ハットトリックといったGI馬と同じレースを走ったことがあったのだから、面白い。

 生涯の獲得賞金は1億3308万円。十分以上に馬主孝行な馬だった。

 自分自身は中堅と言えるかどうかの成績だったが、蹄跡の交わった馬には何頭もの大物がいた。彼らがどんどん出世していくのを横目に、最後まで我が道を進んだ。そして、文字どおり、生涯現役を貫いた。

 ハートランドヒリュは、取り残された存在だったのだろうか。いや、何頭ものGI馬と手合わせすることになったのは、休むことなく芝2000m前後を中心に走りつづけたからだろう。あの馬は、ずっと「ど真ん中」を走っていたのだ。

 そこを大きくとらえれば、ハートランドヒリュのキャリアが、いたずらに長かったわけではなかったことがわかる。

 意味と価値のある馬生だった。だからこそ、こうして記録に残り、その走りを記憶している人も多いのだろう。

 現役最高齢のヒカルアヤノヒメを讃える文章にするつもりだったのだが、最後はしんみりしてしまった。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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