「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」

2014年05月22日(木) 12:00


◆結果を恐れず戦ったヴィルシーナの姿

 長いトンネルを抜け出せずにいるとき、下す一つの決断。苦しみながらも自信を持って決断を下すには、そうしようという信念と勇気がなければならない。そしてなによりもそこに至る知恵があってこそだ。どうでもいいと頽廃(たいはい)的な気分になってしまったら、論語のこのことばが元気づけてくれる。「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」と。賢人は迷わない、人格者は心静かである、勇者は恐れないと教えているのだが、じたばたせずに着実に一歩踏み出してみようということに通じる。

 ヴィクトリアマイルを昨年は1番人気で勝ったヴィルシーナが、今年は11番人気で連覇を達成した。昨年勝ってからあと、前走まで6戦して7着が最高では仕方がない。GI馬でありながらこれだけ成績が悪いのではもう限界が来ているのではないか、多くがそう思う中、陣営は何とかリベンジしたいと思案する。ヴィルシーナは、一昨年の牝馬のGI戦で4戦連続2着したように勝負根性のある頑張り屋だった。それで昨年の成果につながったのだが、それがすっかり影を潜めていたのだった。調教のやり方を工夫したり、初めて短距離1400米の阪神牝馬Sで速い流れを経験させ、チークピーシーズを着用したりと、次々に手を打った。レースの直線、内からメイショウマンボ、外からストレイトガールが迫ったとき、完全に闘争心がよみがえっていた。惑わず、憂えず決断を下し、結果を恐れず戦った姿を見た思いがしたのだった。

 かつて必殺仕事人と呼ばれた田島良保騎手が、オークスをライトカラーで大本命シャダイカグラをゴール前で逆転して破ったことがあった。10番人気の伏兵、いつも右へ右へと寄れるので、直線、他に迷惑をかけてはと外に出したら真っ直ぐ走り、2,3馬身前にいた大本命馬めがけて必死に追ったのだった。相手は天才武豊騎手、大ベテランのプライドと意地が炸裂したとも言えたが、結果を恐れず外へ出す決断が、馬を奮い立たせたのだった。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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