試行錯誤のチャンピオンズカップ

2016年12月03日(土) 12:00 53


 今週行われるチャンピオンズカップは、第17回となっているが、この名称・条件で行われるようになってからは3回目だ。その前は国際招待レースのジャパンカップダートとして行われていた。2000年の第1回から07年の第8回までは東京ダート2100m(02年は中山ダート1800m)が舞台で、ジャパンカップ前日の土曜日に施行。08年の第9回からジャパンカップの翌週に阪神ダート1800mで行われるようになり、14年の第15回から現在の条件になった。

 創設されたばかりのころは、土日でGIがつづく面白さがあったが、やがて「土曜日だと馬券が売れない」と言われるようになり、時期と場所を移した。しかし、移した先の阪神は、ダート競馬の本場アメリカとは異なる右回りのため、アメリカの馬に敬遠されるようになり(東京で開催されていた06年も外国馬ゼロだったが)、阪神開催だった10年から3年連続外国馬ゼロがつづいた。そこで、またアメリカやカナダ、ドバイなどを主戦場とする馬が来やすいよう左回りの中京にしたのだが、左右の回りよりも、彼我のダートの質の違い(日本は砂、アメリカは土に近い)のためか、過去2年に1頭ずつ来日しただけで、今年はまたゼロになった。

 これを「迷走」と見る向きもあるのかもしれないが、私は、こうした試行錯誤はどんどんやってほしいと思っている。

 東京でのジャパンカップダートがあったからこそ、01年、クロフネが2着を7馬身突き放す圧巻のパフォーマンスを見ることができたのだし、アロンダイトとヴァーミリアンの活躍により、エルコンドルパサーがダート種牡馬としても素晴らしいことが明らかになったのだから。

 また、土曜日にGIをやってみたらどうなるかという実験ができたことの意義も大きいと思う。

 レース名をジャパンカップダートからチャンピオンズカップに変えたのは、ジャパンカップと同じ「国際招待レース」という創設時のコンセプトからは外れたレースになったからか。ということは、もし、仮に、ジャパンカップが国際招待レースではなくなったら、こちらをまたジャパンカップダートに戻しても……いや、それはないか。

 別にチャンピオンズカップという名前が嫌いだからこんなことを言うわけではなく、ただ、変わったばかりでなじみが薄いので、モノを覚えるのが苦手な年齢になった私は、つい「ほら、ジャパンカップダートだったあれ」と言ってしまうのだ。

 レース名変更にあたって、ほかにどんな名前が有力候補になったのだろう。「中山グランプリ」が「有馬記念」になるにあたって、実は「グランプリ・ド・ナカヤマ」なども候補になっていた、と、何十年か経ってから知られるようになったが、同じようなことがあとでわかると面白いと思う。

 1987年から、ジャパンカップ翌週の12月頭に、阪神競馬場でワールドスーパージョッキーズシリーズ(WSJS)が行われるようになった。一方、89年から香港カップが12月に移され、その後、国際競走のラインナップが充実していく。さらに98年から、香港国際競走直前の水曜日にインターナショナルジョッキーズチャンピオンシップというWSJSに似たイベントが行われるようになったので、11月の終わりから12月半ばにかけては、極東に世界の一流騎手が集まるようになっていた。

 ところが、先週の本稿のつづきのようになってしまうが、ジャパンカップに出走する外国馬が少なくなると、来日する外国人騎手も少なくなる。そのうえ、WSJSがジャパンカップ前日に東京で行われる年も出てきたりと、ジョッキーのイベントとしては、香港のそれとは切り離される形になった。どうせ単独イベントになったから、というわけではないだろうが、昨年からワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)として夏の札幌で同種のイベントが行われるようになり、これが大いに盛り上がっている。札幌というのは、明治になってから欧米の知恵とセンスで開拓された街だからか、この手の国際イベントがものすごくフィットしてしまうのである。

 怪我の功名ではないが、苦肉の策(でもないか)がヒット企画になることもあるのだから、とにかく、いろいろやってみるしかない。

 チャンピオンズカップ(今も、目の前にあるカレンダーで来週のチャレンジカップと見間違えたのだが)が、今後、どのような形で生き残りながら進化し、よりGIらしくなっていくか、長い目で見守りたい。

 よく「レースは生き物だ」と言われるが、こうして年単位で見るときも、個性もあれば尊厳もある生き物のつもりで接すると、案外、上手くいくのかもしれない。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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