大盛況だったひだかTRと生産地

2004年06月01日(火) 13:18

 日本ダービー前の一週間は、生産地日高にとっても激動の「一週間」であった。マスコミはそれこそコスモバルク一色となり、道民の大きな期待を背に、勇躍東京へ向けて出発するこのヒーローを見送った。さながら「戦地へ赴く出征兵士を見送る」ような光景・・・と言えばいささか大袈裟かもしれないが、とにかく北海道では、「頼むぞ、コスモバルク」といったフィーバー(古い用語だ!)状態が続いた。

 さて、24日に幕を開けたトレーニングセール。初日のHBA日高軽種馬農協主催セールは前回触れたので、今回は翌25日の「ひだかトレーニングセール」の模様を簡単に紹介しよう。JRA日高育成牧場(浦河町)を会場に開催されたこのセールは、何と対前年度比の数字が全て飛躍的に上回る好成績となり、関係者は一様に喜びの表情を浮かべた。

 売却率で64.6%。平均価格で1216万円。売却総額でも約2億円上回る総額5億1072万円。65頭中、42頭が売却され、最高価格も市場のレコードを更新した。

 最高価格馬となったのは、サンデーサイレンス産駒の「リュウタロウ」(様似、渡辺牧場生産。販売申込者は浦河、ひるかわ育成牧場)。3000万円からのスタートで激しい競り合いの末、5000万円の大台に乗った。

 昨年は69頭中、30頭しか売れない厳しいセールだったが、今回の日本ダービーにも出走したメイショウムネノリ(父リンドシェーバー)を輩出したのを始め、2歳戦終了時でJRAでは18頭出走中8頭が勝ち上がる一応の結果を残した。今年の取引馬たちが今後どのような競走成績を上げるかで、またトレーニングセールの将来像も見えてくる。

 なお、民間会社の「プレミアセール」も、来る6月28日に新冠・日高軽種馬育成公社にてトレーニングセールを開催する予定だ。以前は大々的に札幌競馬場などで開催していた同社だが、今回は会社組織を一新し、新たに新社長(高橋司氏)を迎えて2年ぶりのセールを実施することになる。こちらも注目してみたい。

 ところで、冒頭に「いろいろあった一週間」と書いたが、まさしく明るい話題と暗い話題が交錯し、何とも落ち着かない一週間だった。

 白井牧場社長・白井民平氏死去のニュースにも驚かされた。日高を代表する生産者であり、馬術界の巨人でもあり、影響力の大きな人だっただけに残念でならない。

 早稲田大学馬術部主将を務めていた白井氏は、女優の吉永小百合さんとも交遊があり、目下撮影中の東映「北の零年」という映画では、馬担当という重要なポストを担っていたそうである。

 白井氏の死去により、その「仕事」は、白井氏と親交の深かった長谷川敏氏(門別・碧雲牧場場主)にお鉢が回ってきたそうで、先日吉永さんより長谷川氏に直に電話があったとのこと。

 長谷川敏氏は早稲田で白井氏の後輩でもある。かつて白井牧場に勤務していた頃、縁あって黒沢明監督の「影武者」で、白井氏とともに“馬監督”を務めた人物である。いつか機会を見て、この人のことも詳しく紹介するつもりだ。

 そして、週末は日本ダービーが行われ、道民の熱い期待を背に走ったコスモバルクは、あえなく8着に敗退。終わってみると、サンデーサイレンスの包囲網と、抜けた強さのキングカメハメハに完敗した形だった。

 長距離輸送の疲れ?展開?騎乗ミス?いろいろに敗因が取り沙汰されているが、一つには気象条件もまた「逆風」だったという気がする。この日、府中は30度を超えていたそうだ。しかも湿度も高く、かなりの「不快指数」だったと聞く。

 せいぜいが日中でも20度になるかならないかのこの時期の日高(しかも湿度は低い!)と比較すると、馬にとってはかなりのストレスとなったのではないか、ということ。

 人間でも北海道人は総じて暑さに弱い。道産子コスモバルクにとってはこの暑さもまた“難敵”だったようだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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