10年で44%減少した種牡馬

2004年06月15日(火) 14:32

 2004年度の供用予定種牡馬に関するデータが「JBBA・NEWS」6月号に載っている。1995年にはサラ、アラ合わせて759頭いた種牡馬が、今年度には425頭まで減少し、昨今の生産地不況は種牡馬の世界にも大きな影響を及ぼしていることが浮き彫りとなった。

 そのうち、サラブレッドは1995年に568頭だったのが、2004年には388頭と、約32%の減少。しかし、アラブ系種牡馬は、もうほとんど壊滅状態とも言える数字になっている。すなわち1995年には191頭いた種牡馬が、何と2004年には37頭にまで“激減”しているのである。率にして8割以上もいなくなったことになる。

 相次ぐ地方競馬のアラブ競走廃止に伴い、アングロアラブそのものを求める顧客が激減してしまったために、生産もそれに応じて衰退の一途をたどったわけである。嘆息せざるを得ない状況だが、競馬場そのものが減り続ける現状を考えれば、ひょっとしたら、私たちの生産するサラブレッドだって、アラブと同様の道を歩みつつあるのかも知れない。

 主として地方競馬向けにサラブレッドを生産してきた零細規模の生産者は、配合種牡馬もまた“それなり”の種付け料の相手を選定してきた。

 しかし、ある種の人気稼業とも言える種牡馬の世界では、交配する繁殖牝馬が一桁台になると、種牡馬を続行することが困難になってくる。種馬場への預託料すら支払えなくなってくると、先が見えてくるのだ。

 それに関して、もう一つ興味深い資料が同誌36Pに掲載されているので紹介しよう。日本軽種馬登録協会による、先月23日までに届け出のあった「2003年に供用停止した種牡馬」の一覧である。

 サラブレッド53頭、アラブ5頭の名前がここに記されているが、昨年中に死亡した種牡馬は、サラブレッドが12頭、アラブが2頭で、それ以外はほとんどが「用途変更」という届け出で“処理”されている。

 死亡種牡馬の中には、エアシャカールやカブラヤオー、タマモクロスなど、一般の競馬ファンにもなじみの深い名前があり、現役時代の勇姿や、活躍した産駒のことなど思い出してある種の感慨を覚えたりするのだが、生存していながら、「用途変更」され、その中の少なくない数が、後の消息がつかめなくなってしまっているであろうことを考えると、ファンならずとも心中複雑なところ。

 人気稼業の宿命とはいえ、用途変更された種牡馬の中には、競馬ファンお馴染みの名前がかなり多い。イブキマイカグラ、エルウェーウィン、オフサイドトラップ、オペックホース、ギャロップダイナ、サクラテルノオー、サクラトウコウ、ジョージモナーク、シンチェスト、ダイナレター、デュークグランプリ、ナリタタイシン、ホリスキー、マイシンザン、モガミ、ユウセンショウ、ユウトウセイ、ライブリマウント、ラシアンルーブルなどなど。

 この中で、マイシンザンは浦河在住の本多列央・敏江夫妻が引き取り現在も面倒を看ている(乗馬として再出発させようと鋭意調教中である)のは以前この欄で紹介した通りだが、それ以外の「元・種牡馬」に関しては、何とも分からない。

 あるいは、競走馬ふるさと案内所などで、用途変更後の処遇について把握しているのだろうか。できることなら、これらの馬たちの余生を何らかの形で保証してあげられるシステムが出来上がることを願いたい。

 現役時代に、あるいは種牡馬になってからでも、十分に自身の「食い扶持」くらいは稼ぎ出した馬たちのはずだから。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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