2019年06月20日(木) 18:01
▲今年は既にGI・2勝、選手はワイドファラオでユニコーンSを制した福永騎手(撮影日は2018年8月11日、撮影:下野雄規)
今回は今年4回目の当コラム登場となる福永騎手。何度取り上げても魅力が尽きない、戦術的な騎乗で進化し続ける姿に哲三氏も思わず“福永マニア”を自称するほど! そんな研究心の止まない福永騎手は、先週ダート初挑戦のワイドファラオで見事勝利。一体どんな技術が繰り出されたのでしょうか…(構成:赤見千尋)
今週振り返るのはユニコーンS。初ダートだったワイドファラオが直線で並ばれてからも渋太く粘って逃げ切り勝ち。馬の頑張りはもちろん、(福永)祐一君の好騎乗が光りました。1枠1番というのは絶好枠であり、逆にスタートが遅ければ厳しい枠にもなります。スタートをしっかり決めて、まずは絶好位に持ち込めたということがファインプレーでしたね。
■6月16日 東京11R(1番:ワイドファラオ)
それから前半の馬の走らせ方。僕はここ最近の祐一君が騎乗している馬の走らせ方、馬のフォームが好きなんです。以前から祐一君に関しては、すごく試行錯誤して考えているのがうかがえるので、もっともっと良くなってくるのではという話をしていましたが、まさに最近の乗り方は、いい形で答えが出て来たのではないかと。
僕が前から言っている、上に誰も乗っていないような空馬のフォームのような走りで、馬が楽しそうに走っているように見える。余分な動きがなく、自由に走れている感じです。もちろんある程度の制限はあるけれど、その制限というのが騎手の思惑寄りにならず、馬の思惑寄りになっている感じ。馬の思惑というのは、簡単に言えば走り方、馬の走るフォームが、馬に沿った形になっているなということです。
究極を言えば、馬にとって走るフォームが良ければ、気難しさは出しにくいのではないかと僕は思っていて。人間でも走る時のフォームが大事なのと同じで、騎手のフォーム以上に馬自身のフォームが一番大事だと思っています。
▲「騎手以上に馬自身のフォームを大事に」(写真は未勝利戦優勝時、(c)netkeiba.com)
ユニコーンSに話を戻すと、4コーナーを回って若干内を開けて走っていました。例えば経験の浅い若いジョッキーや、結果が欲しい欲しいと気持ちが急いでいるジョッキーだったら、あそこはロスなくぴったり回ってくることを選択したのではないかと思います。
でも実は4コーナーからちょっと内を開けて外に出したところが大きなポイントで。後ろのミルコの動きを見てもらうと、4コーナーを回ってくる時の馬の走りがもう1回外に出さないといけない形になっている。1回余分に外に出すという扶助操作を入れないといけない形なんです。これは祐一君が、コーナーの回り方で隊列を使って、そういう扶助操作をしなければならなくなるように仕向けている。
4コーナーの回り方というのは、キレイに回るのは当然のことですが、それだけではなくて、後続のことを頭に入れた回り方というのも大事。結果としてアタマ差だったことを考えると、この1回の扶助操作が入るか入らないかというのは勝負を左右したのではないかと思っています。
▲4コーナーであえて内を開けたことが、結果に結びつくことに(ワイドファラオは写真奥、撮影:下野雄規)
こういう戦術が取れるのも、前半の馬のフォームがいいから。騎手は馬の走りよりも戦術や作戦の方を考えやすくなるし、いろいろな選択肢からひらめきやすくなると思います。
僕は福永マニアなので(笑)、すごくよく見て来たんですけど、一昨年の祐一君だったら、あのコーナーは手ごたえ良く引っ張り切りで回ってくるんじゃないかなと。馬の収縮を意識して、最後に弾かせてやろうという戦術を取ることが多かったように思います。でも今はそういうところの意識が変わりつつあるのではないかと。考え方で乗り方というのは変わってくるし、常にもっと上をという向上心があるからすごく研究していますよね。
今回も、ただただハナに行ってフワッと乗って勝ったわけじゃないですよと。その中にはすごく細かい、中身の濃い騎乗技術が詰まっていて、こういう勝ち方というのは相手に読まれづらいと思うし、「いろいろな戦術を僕は取りますよ」ということを他のジョッキーたちにも匂わせることが出来たのではないでしょうか。
福永マニアとしては今後がさらに楽しみですし、具体的に言えば芝の中距離でもこういう勝ち方が出来ればと。今までの戦術に加えて、これまでなかったような戦術を出せるようになってきているし、このまま研究を続けていけば、海外のトップジョッキーにも負けない技術が身に付くのではないかと期待しています。
▲今回で7戦連続のコンビ、待望のGI・2勝目へ(c)netkeiba.com
今週注目のコンビは宝塚記念のキセキ&川田(将雅)君です。このコンビにはいつもいい競馬を見せてもらっているので、ぜひGIを勝つところを見たいです!
(文中敬語略)
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佐藤哲三
1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。
プロフィール
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