緊急事態宣言発令後の競馬

2020年04月09日(木) 12:00

 4月7日、火曜日の夜、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言が発令された。

 現在中央競馬が開催されている中山競馬場は千葉、阪神競馬場は兵庫と、緊急事態宣言の対象地域に位置している。

 同日の午後、緊急事態宣言の発令が予告された段階で、JRAから、4月11日以降の開催の可否について、8日にも何らかの発表があると報じられた。

 そして、緊急事態宣言発令から一夜明けた4月8日、水曜日。

 まず、午前中、東京シティ競馬から、政府の緊急事態宣言発令を受けて、大井競馬場で引きつづき無観客競馬を実施することが発表された。

 地方競馬は競馬場内に厩舎があり、人馬の動く範囲が限られている。南関東の4場は、大井(東京)、川崎(神奈川)、船橋(千葉)、浦和(埼玉)と、すべて緊急事態宣言が発令された地域にあるが、互いに比較的近いところに位置しており、関係者が公共交通機関を使用しなくても移動できるので、開催継続を決定しやすかったと思われる。

 JRAはどうするのだろうと思っていたら、8日の正午ごろ、発表があった。

 JRA公式サイトの「ニュース」内の「4月11日(土曜)以降の中央競馬開催について」という見出しのページを見て、ひとまず、胸を撫で下ろした。

 各媒体で報じられているので簡単に記すにとどめるが、JRAは、政府による緊急事態宣言や、都道府県知事からの要請の趣旨を理解したうえで、さらなる対策を講じ、引きつづき無観客競馬を実施する、というものだった。

 追加の感染拡大対策として、競走馬の他ブロック競走への出走制限、競馬開催における騎手の移動制限、そして「認定調整ルーム」の運用について、という3つの取り組みがなされることになった。

 一番のポイントは、人馬の移動距離と移動時間を短くすることだ。さらに、「認定調整ルーム」においては、騎手たちを、「密閉」「密集」「密接」の「3密」の条件から、より遠ざけることにもなる。

 その日の朝、桜花賞などに向けて追い切られた馬たちが、週末に力を発揮する場が用意されてよかった。

 さて、私は先週の日曜日、大阪杯を取材するため阪神競馬場に行ってきた。自宅兼事務所のある東京では、すでに週末の外出自粛要請がなされていたので、外に出るのも嫌で、正直、恥ずかしくもあったのだが、仕事なので仕方がない。

 電車に乗ったのは、四位洋文調教師の騎手引退式を阪神で取材し、大阪に1泊して帰って来た3月1日以来だった(それ以外、どうしても外出しなくてはならないときは自家用車を使っている)。

 自宅から羽田空港に向かう電車でも、伊丹空港から阪神競馬場に向かう電車でも、マスクをしていない人をちらほらと見かけた。

 換気のため一部の窓を開けて走っているので、車内は寒かった。それもあってか、大阪モノレールの隣の車両にはひどく咳き込む老人がいて、何人もが慌ててこちらに逃げてきた。

 滞在時間を極力短くして、誰とも濃厚接触をしないよう、阪神競馬場には午後2時過ぎに入った。

 大阪杯を勝ったラッキーライラックに騎乗したミルコ・デムーロ騎手や、管理する松永幹夫調教師のインタビューは、コーンとバーでマスコミ関係者と2メートルほどの距離を置いて行われた。

 見回した範囲では、私以外にフリーの物書きはいなかった。が、スチールのカメラマンは、どこの競馬場でも、GIになるといつも見かける人たちの8割か9割はいたように思う。

 考えてみると、彼らは、阪神で撮影する場合、オッズ板の下でパドックを周回する馬を撮り、ゴール付近の外埒沿いに移動してレース写真を撮って、枠場に戻ってきた勝ち馬や勝利騎手をコース付近から撮る――という、平時から、騎手や厩舎関係者と距離を置いたところを動いているので、こういう非常時でも、平時とほぼ同じ仕事ができるのだ(表彰式と口取り撮影はないが)。

 今後、感染拡大がどうなるか、予断を許さない状況がつづくだろう。そんななか、スポーツ誌「ナンバー」でダービー特集を行うことが決まり、今、取材のアポ取りなどをしているところだ。

 競馬がギャンブルである限り、「こんなときに競馬なんて」と言われるのは仕方がない。が、ギャンブルであるからこそ、馬券の売上げから巨額の国庫納付金をおさめることができる。

 競馬をやる意味は、絶対にある。

 しかも、今年のクラシックは、牝牡ともにハイレベルで、めちゃめちゃ面白くなりそうなのだ。

 こんなときだからこそ、面白い競馬。それを、例年とは違う形になるかもしれないが、しっかりと伝えたいと思う。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ノン・サラブレッド』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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