2021年10月23日(土) 12:00
「レース前にポケットから出ていかなかったり、ゲートになかなか入らなかったりと、競馬が嫌という素振りを見せていた」とソダシの吉田隼人騎手が語ったのを知り、50年前のあることを思い出していた。
その年のダービー戦線は戦国模様、レース毎に東西の勝馬が入れ替わり、4番人気で皐月賞を勝った西のヒカルイマイと、当時のダービートライアルNHK杯でこれにアタマ差の2着と名乗りをあげた新星、東のダコタとが一気に人気を集めていた。都内の公会堂で開かれたダービー検討会では、出演した東西の解説者も話はこの2頭に集中、激しい東西対決になっていた。
時間がきて話をまとめるとき、これでいいのかという思いが頭をよぎり、「その時に馬がどんな気分なのか分からないし、人が行けと言っても嫌だと動かないこともあるかも知れないので、最後はどうなるでしょうか」と思わず言ってしまっていた。
当日の一番人気はダコタ、馬群の中団にいて動けず28頭中の17着、二番人気ヒカルイマイは終始馬群の後方にいて動かず、直線だけで20数頭ゴボウ抜きで春の二冠を達成していた。自分自身初めてのダービー実況で、これまた初めてダービーに騎乗していた田島良保騎手の胸中に思いを乗せてしゃべっていたのだった。
「ヒカルイマイは相変わらず後方から4、5頭目」としゃべりながら、「焦るな、焦るな」と自分に言って聞かせていた。この心境は田島騎手に通じるものがあったと思うし、これを感じ取っていたヒカルイマイは、十二分に持てる力を発揮できたのだろう。
人馬一体、その前提にあるものが何であるかはっきり見えている。ソダシは、秋華賞では周囲のあまりの熱視線に走る方に気が行かなかったのかもしれないし、デリケートなサラブレッドならよくあることだろうと思う。こういうこともあると、また教えてもらった。
今週の菊花賞は、距離が3000米でどの馬も走ったことがない。自分の走るリズムを守り、スタミナを温存しなければならない。どの馬も承知の上で出走しているが、実際に落ちついて走れるかどうか。今年は阪神の内回り、阪神大賞典と同じだ。ペースの緩みは少なく、ロングスパートの持久力勝負になるから、序盤から中盤にかけての折り合いと、スタミナを考え内を有利に回れる枠順も重要なポイントになりそうだ。
春の皐月賞とダービーの勝ち馬がいないので、いずれも3着で神戸新聞杯を快勝したステラヴェローチェが血統、実績、脚質からこの枠でも関係ないだろう。レッドジェネシスは、スタミナ勝負に強いタイプだから、この好枠を生かして戦いやすい。そして、先行力があって長距離に強いタイトルホルダーはこの枠なら、前走のように囲まれて身動きができなくなることもないだろう。いずれにせよ、長丁場は自分との勝負に勝たねばならない。
「栄冠は 自分に勝った その証し」
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。
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