凱旋門賞戦線に台頭してきた新興勢力

2013年08月07日(水) 12:00

 7月27日に英国アスコットで行われたG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)を、ドイツ調教馬ノヴェリスト(牡4、父モンスン)がトラックレコードで圧勝。G1凱旋門賞(10月6日、ロンシャン、芝2400m)の有力候補に伸し上がった話題は、日本の競馬メデイアでも大きく報じられた。

 シーズンも折り返し点を迎えた7月、凱旋門賞へ向けた戦線で急浮上した馬が、キングジョージを勝ったノヴェリスト以外にも、複数出現している。

 ノヴェリスト以外に台頭してきたのは3歳馬たちなのだが、いずれも春の3歳クラシックとは無縁だった馬だった。3歳世代の勢力分布というのは、春のクラシック終了後、秋一連のビッグレースまではさほど大きくは変わらぬものだが、今年に関して言えば、古馬との対戦を経験していないにも関わらず評価が急上昇した3歳馬が複数見受けられるという、特異な現象が起きている。

 例えば、コーラルが5倍、ラドブロークスが6倍、ウィリアムヒルが5.5倍のオッズを掲げ(以下、オッズは全て8月6日現在)、いずれも凱旋門賞へ向けた前売り1番人気に支持しているフリントシャー(牡3、父ダンシリ)。

 K・アブドゥーラ殿下のジャドモントファームスによる自家生産馬で、母ダンスルーティンがG2ロワイヤリュー賞(芝2500m)勝ち馬という血統背景を持つ。凱旋門賞7勝の伯楽A・ファーブル調教師の管理馬としてデビューを果したのは今年5月7日だったから、春のクラシックに乗れなかったのも必然だった。

 シャンティーのメイドン(芝2000m)を2馬身半差で制してデビュー勝ちを果した後、6月1日にロンシャンで行われた条件戦(芝2100m)に駒を進め、ここで2着に敗れて初黒星を献上。2週間後の6月16日にシャンティーで行われたG3リス賞(芝2400m)を3馬身差で制して重賞初制覇を果すと、勇躍挑んだのが7月13日にロンシャンで行われたG1パリ大賞(芝2400m)だった。

 ここで、G2愛ダービートライアルS(芝10F)勝ち馬で、G1英ダービー(芝12F10y)4着の実績を誇るバトルオヴマレンゴ(牡3、父ガリレオ)や、G2グレフュール賞(芝2000m)勝ち馬で、G1英ダービー(芝12F10y)5着の実績を誇るオコヴァンゴー(牡3、父モンスン)らを差し置いて1番人気に推されたフリントシャーは、見事に期待に応えて1.1/2馬身差の快勝。本番と同競馬場・同距離で行われた一戦を、内容の濃いレース振りで制したことを受け、凱旋門賞の最有力候補と遇されることになった。

 あるいは、英国クラシック15勝に加え、ワークフォースで2010年の凱旋門賞を制している英国の伯楽M・スタウトが管理するテレスコープ(牡3、父ガリレオ)。

 兄に日本で走り勝ち馬となったマックスバラードがいて、叔父にG1ドバイワールドC(d2000m)勝ち馬ムーンバラードがいるという血統背景を持つ同馬。昨年9月8日にアスコットで行われたメイドン(芝7F)でデビューし、1番人気に推されたものの、騎手がムチを落とすアクシデントがあって追い込み切れず2着に惜敗。続くニューマーケットのメイドン(芝8F)を2.1/4馬身差で制して初勝利を挙げ、2歳シーズンを終えている。

 名門厩舎の期待馬ということで、シーズンオフのアンティポストではダービーの有力候補(オッズ11〜13倍の2〜4番人気)に挙げられ、G2ダンテSを目標に調整されていたのだが、直前の追い切りの動きにスタウト師が満足せず、ダンテSを回避。その後、ぶっつけでダービーに挑むプランもあったが、ソエが痛くなってダービー出走も断念することになった。

 そのテレスコープがようやく出走態勢整い、今季初めてファンの前に姿を現したのが、7月18日にレイスター競馬場で行われた条件戦(芝9F218y)だった。

 テレスコープに、前走ヘイドックのメイドン(8F)でデビュー勝ちしたばかりのムラキム(牡3、父ピヴォタル)、LRニューマーケットS(芝10F)2着馬で、前走ロイヤル開催のG3ターセンテナリーS(芝10F)は大敗したセンチュリアス(牡3、父ニューアプローチ)を加えた3頭立ての競馬となったが、ここで2着ムラキムに24馬身差を付けるというド派手なパフォーマンスで快勝。凱旋門賞へ向けた前売りで、各社15〜17倍のオッズを掲げて7〜9番人気に支持することになった。

 更に、フリントシャーと同じくA・ファーブル調教師が管理するトリプルスレト(牡3、父モンスン)。

 ティームヴェイラーによる自家生産馬トリプルスレトは、甥に欧州マイルG1・3勝のキャンフォードクリフスがいて、祖母トリプルティップルが北米のG2ウィルシャーH(芝8F)勝ち馬という血統背景を持つ。

 2歳時の戦績4戦1勝。デビュー3戦目のサンクルーのメイドン(芝1600m)で初勝利を上げた後、次走はいきなりG1クリテリウムインターナショナル(芝1600m)に挑んでいる(結果は4着)から、勝ち上がるのに多少手間取ったものの、もともと厩舎の期待は高い馬だったようだ。

 3歳緒戦にも重賞のG3ラフォルス賞(芝2000m)を選択し、出遅れながらもゴール前で鋭い末脚を発揮して差し切り勝ちし、関係者の期待通りクラシック戦線に乗るかに見えたのだが、続くG3ギシェ賞(芝1800m)で、前走を更に上回る酷い出遅れを喫して3着に敗退。この段階で陣営は、前線からの一時撤退を決意。馴致のエキスパートと言われるモンティ・ロバーツ氏をわざわざ北米から招聘し、2週半にわたって連日ゲート難を解消する訓練を施した後、戦列に戻ったのが7月21日にメゾンラフィットで行われたG2ユージンアアム賞(芝2000m)だった。

 再教育の成果があってここでは無難にゲートを出たトリプルスレトは、G3ギシェ賞勝ち馬ダルワリ(牡3、父モアザンレディ)、G1仏ダービー(芝2100m)5着馬シカプール(牡3、父ドクターフォング)らを向こうに廻して2馬身差で快勝。直後に陣営が「秋の目標はG1凱旋門賞」と宣言したのを受け、コーラルはオッズ17倍の7番人気に支持することになった。

 ヨーロッパでは中核をなす2400m戦線だけに、その層の厚さに今更驚きはしないが、それでもシーズンのこの段階で、ここまで次々と、凱旋門賞へ向けた新興勢力の台頭がある年も、あまり記憶がない。

 そんな中、オルフェーヴル(牡5、父ステイゴールド)は、コーラルがオッズ8倍で、G1仏ダービー馬アンテロ(牡3、父ガリレオ)、10F路線のG1・3連勝中のアルカジーム(牡5、父ドゥバウィー)と横並びの3番人気、ラドブロークスが同じくオッズ8倍で5番人気、ウィリアムヒルがオッズ7倍で、ここもアンテロ、アルカジームと横並びの3番人気となっている。

 日本ダービー馬キズナ(牡3、父ディープインパクト)は、コーラルがオッズ17倍で、テレスコープやトリプルスレトと横並びの7番人気、ラドブロークスとウィリアムヒルはいずれもがオッズ15倍で8番人気という評価となっている。

 昨年よりは分厚いメンバー構成となりそうな凱旋門賞。逆に言えば、今年の顔触れを相手に勝利を収めることが出来れば、日本馬の評価が更に上がることは間違いない。

 まずは、オルフェーヴルとキズナの無事の渡航を祈りたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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