新しいファンにはあまり見せたくないレース/宝塚記念

2015年06月29日(月) 18:01


優勝馬も2着馬も称えられなければならないが

 素早く流れに乗り、2番手から抜け出して初G1を制した5歳ラブリーデイ(父キングカメハメハ)は十分に称えられなければならない。また、上がりのかかるだろうレースに対応するため、最後方近くから直線だけの競馬に徹し、あと一歩のクビ差2着に突っ込んだ浜中騎手の5歳牝馬デニムアンドルビー(父ディープインパクト)の好走も、賞賛に値する。

 しかし、上半期の総決算にも相当するファン投票の「ドリームレース=宝塚記念」とすると、みんな振り返りたくないくらい、新しいファンにはあまり見せたくない無惨なレースだった。「馬のレースだからこういうこともある」「これがゴールドシップのキャラクターなのだ」で、少し問題点がささやかれるだけでは、わたしたちの競馬の未来は少しも明るくない。

 今年は「全体に売り上げが微増している」などと胸をなでおろしている関係者もいるが、とりまく社会状況、生活の行き詰まり、人口構成図から考えるに、あと10数年=20年もしたら、1970年代中盤から「世界一の馬券売り上げ額」がささえてきた日本の競馬は、その馬券売り上げ額は半減どころか、3分の1くらいに減少する。ゴールドシップ絡みで投じられた約112億円が、一瞬で消えて、泣き寝入りで済むような時代は過ぎ去った夢物語になる。少しでも良質のレースを展開しながら、望ましい方向を探さないといけない。

 パドックではまるで悟りきったかのように静かだったゴールドシップは、目隠しをされて1番先にゲート入りすると、我慢してずっとおとなしく待っていた。しかし、最後に隣のラブリーデイが入った直後、激変する。「落ち着いていたけど、あとちょっというところで『ウワッー』とうなって、ダメだった(横山典弘騎手)」。「昨年の天皇賞・春でもゲート内でほえて、ジャンプするように出たが、今回は、また怪獣みたいになった(須貝調教師)」。立ち上がってゲートに前脚をかけたあと、ごねながら着地した瞬間、ゲートがあくのと、また立ち上がったのはほとんど同時だった。

「態勢が整ったと判断してゲートを開けた(裁決委員)」と説明報道された。とてもそのようには見えない。大きな問題があって先にゲート入りしていたゴールドシップが、1度大きく立ちあがり、もう尋常ではないのはTVの画面を通してさえ明らかだった。1度着地しながら、裁決委員の説明通りだと、もしかすると(横山騎手がスターターの方を一瞬見た)かもしれないが?「おい、そこでスタートボタンを押すか?」というのが見守ったファンのストレートな感想である。

「各馬の発走態勢が整ったら、速やかに発走合図を送るのが第一」とされるが、ホントに発走態勢が整ったと判断したというなら、このスターターも、馬の後ろで手を挙げて合図を送った発走委員も、ウソつきである。各馬(騎手)の呼吸を見計らうのは、それは大変なことで、チャカチャカし、怪しい素振りをしている馬は18頭立てならほかにもいる。暴れかけると、声を出す騎手だっている。後方でスターターからは見えない各馬の脚元や動きを見守り、タイミングを計って合図を送る発走委員も、最高のタイミングでボタンを押すスターターにも、かかる負担や責任は想像を超えるだろう。まして、頂点のG1宝塚記念である。だが、スタートが切られた瞬間、「下手くそ!」。期せずして、驚きの声が上がった。

 どうしてそんなに焦ったのか。人気馬の動向に合わせるのはフェアではないが・・・

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柏木集保

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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